研究課題/領域番号 |
23520937
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研究機関 | 京都精華大学 |
研究代表者 |
小椋 純一 京都精華大学, 人文学部, 教授 (60141503)
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キーワード | charcoal / vegetation / history |
研究概要 |
土壌や泥炭に含まれる微粒炭の起源となった植物種や植生のタイプの特定に関する基礎研究を深めることが主な目的である本研究において,平成25年度には次のような研究を行った。 ①草原や森林が実際に燃えて生成された微粒炭を確認するための基礎研究として,岡山県北部などで採集したさまざまな草本類,木本類を電気炉で炭化し,その微粒炭の形態を調べた。筆者のこれまでの研究では,植物の炭化実験ではしばしば灰化を伴い,植物の種類によっては希望通り炭化することができなかったが,平成25年度から一般の電気炉を用い安価で確実に炭化する方法を考案した。 ②一方,実際の森林火災でどのような微粒炭等炭化物ができるかについても調べた。平成25年度は国内で目立った林野火災がない年であったが,この年度に調べたのは平成25年3月にニュージーランドのオークランド中心部から北西約70Kmのところで採取した試料についてである。そこでは,同年2月にラジアータパイン(Pinus radiata)の高木林やマヌカ(Leptospermum scoparium)などの低木林,またそれに隣接した大型のイネ科草本などからなる草地の火災が発生している。それぞれの植生ごとに,どのような微粒炭等炭化物が生成されやすいかを調べた。 ③上記②の研究成果について,日本植生史学会(12 月1日・高知大学)において,また広島県西部中国山地の森林や草原で採取した土壌の微粒炭分析結果について日本生態学会(3月15日・広島国際会議場)において発表した。また,関連する研究発表を,国立歴史民俗博物館科研集会(9月4日,広島ガーデンパレス),また国立歴史民俗博物館基幹研究集会(12月8日,東京ガーデンパレス)において発表した。また,「植生景観の復元」(歴史評論 vol.768,27-32,2014)において本研究についても記した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の進展がやや遅れている点としては,林野火災跡地で採取した試料の分析・考察,実験的に生成した微粒炭のデータベースの構築,研究成果の論文化がある。そのうち,林野火災跡地で採取した試料の分析・考察については,平成25度末時点では検討した例が予定を大きく下回り,一部海外の例も調べたりもしたが,平成26年度に入ってすぐに多くの林野火災が国内だけでも発生し,その主な地での微粒炭等炭化物の採取を行ってきているため,本稿執筆時点においては,その遅れはかなり小さくなってきている。 一方,実験的に生成した微粒炭のデータベースの構築については,平成25年度中に確実にきれいな微粒炭標本の作製ができるようにはなったが,これまでに調べた植物種の数は予定をだいぶ下回っている。また,その成果をデータベース化するにはまだ至っていない。また,研究成果については学会では順次発表してきているが,その論文化は思うように進んでいない。 このように研究が予定通り進んでいない理由としては,以下の点が考えられる。 ①前年度からの研究の遅れがあったこと。 ②他研究でも多くの時間をとられたこと。 ③校務も多忙であったこと。 ④家庭でも例年以上に大きく時間をとられることがあったこと。 そのうち,②については,他の科研だけでも研究分担者となっているものが1件,研究協力者となっているものが1件ある。また,ほかにも国立歴史民俗博物館の研究1件で共同研究員,他大学主催の研究1件で客員研究員として関わっている。それらは、これまでお世話になってきた方々からの要請でお引き受けしている研究であるが,このような状況により本研究のための時間が減ることになった。ただ,たとえば昨年度ニュージーランドの林野火災跡地で本研究の調査を行うことができたのは,主に他研究の旅費が利用できたためであるなど,他研究への参加が本研究にも役立っている面も少なくない。
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今後の研究の推進方策 |
今後重点的に進めるべき課題として,①林野火災跡地でこれまでに採取しながら未分析の試料の分析・考察を行うこと,②微粒炭のデータベースの構築,③研究成果の論文化――がある。他研究でも少なからず時間をとられるという状況にはあるが,できる限り本研究に時間をとるように心がけるとともに,適宜研究補助員なども使いながら上記の課題を急いでこなしてゆきたい。 一方,林野火災跡地としてこれまで予定しながらまだ調査ができていない福井県から秋田県にかけての日本海側の草原(または旧草原)での調査を行いたい。また,これまで調査した森林火災跡地は,主に樹皮や地表部の植生や落葉や腐植が燃える程度のところが多かったため,より激しく燃えた森林火災跡地(たとえば北米カリフォルニアにおける最近の森林火災跡地)での調査も可能であれば行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた主な理由としては,前の年度からの繰り越しに加え,平成25年度には国内で目立った林野火災がなかったこと,また本研究以外の研究や公務などにも多くの時間をとられたことがある。 そのうち,本研究以外の研究については,平成25年度に他の科研で新たに研究分担者となったものが1件,継続して研究協力者となっているものが1件ある。また,そのほかにも国立歴史民俗博物館の研究1件,他大学主催の研究1件にも共同研究員などとして関わっている。それらは,これまでお世話になってきた方々からの要請でお引き受けしている研究であるが,このような状況により本研究が予定より遅れ次年度使用額が生じている。 林野火災跡地でこれまでに採取しながら未分析の試料の分析・考察には適宜研究補助員も使いながら試料の分析をより速く行うようにしたい〔20万円:予定支出額・以下同様〕。また,微粒炭のデータベースの構築,公開にはやや多くの費用がかかる予定である〔50万円〕。 一方,これまで予定しながらまだ調査ができていない福井県から秋田県にかけての日本海側の草原(または旧草原)での調査,激しく燃えた森林火災跡地として北米カリフォルニアでの調査も行 いたい〔40万円〕。また,旧草原などで採取した微粒炭のC14年代測定を数点実施したい〔25万円 〕。加えて,いくつかの学会での発表を継続して行う〔21万円〕とともに,研究成果の論文化を進める〔10万円〕。また,研究を進めるための器具類や試薬なども必要である〔4万円〕。
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