研究課題/領域番号 |
23520939
|
研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
野嶋 洋子 国際日本文化研究センター, 研究部, プロジェクト研究員 (50586344)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 考古学 / 民族誌 / 社会構造 / ヴァヌアツ |
研究概要 |
研究の第一目標である石組祭祀遺構の事例分析にむけ、ヴァヌアラヴァ(南西部と東部)とモタラヴァの2島での遺構分布調査を実施した。モタラヴァについては、主要な遺構群をほぼ全て確認することができ、祭祀遺構分布の大まかな様相の把握が可能となった。特にその東部地域に複合的遺構群が多数存在することが判明し、今年度以降の重点的調査エリアのひとつとしたい。ヴァヌアラヴァでは南西部に加え、東部地域にも幾つかの遺構群があることを確認した。同島では今後、北西部など他地域における遺構分布についても確認し、図面作成など詳細なデータを収集する必要がある。新たに踏査したモタラヴァ東部、ヴァヌアラヴァ東部については、継続的調査と部分的な発掘実施に対する地域住民の了承・協力を得たことから、今後、円滑に現地調査を進めることが可能である。現在までのところ、祭祀遺構の分布に関して、海岸部から内陸まで様々な場所に様々な形態の遺構が確認されているが、複雑な構築面をもつマウンド遺構は内陸部に限られるという傾向が看守され、立地と遺構の性格を考える上で興味深い。ヴァヌアラヴァ南西部における祭祀遺構は数例に限られるが、タロイモ水田栽培が発達している地域であることから水田跡遺構の分布状況を把握し、祭祀遺構が近接する地点については、今後の調査に供するため詳細な図面の作成を行った。同時に、祭祀遺構と水田跡が隣接する遺跡において、簡単な試掘を実施することができた。良好な遺物包含層はなく、通時的考察に適う資料は得られなかったが、その一方で、遺構に関する聞取り情報と照らし、石組祭祀遺構の成立がかなり最近となる可能性が推測された。この遺構の出現が競合的非首長制社会の成立を示すものであるならば、生業・交易活動などに加え、19世紀に加速した「西洋との接触」によるインパクトを考慮する必要性を認識することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基礎となる石組祭祀遺構のデータ収集を中心に、調査研究活動を行った。概ね実施計画に従い、研究を遂行することができた。とりわけモタラヴァ島については、主要な石組祭祀遺構群をほぼ全て網羅することができ、インベントリーの整備と詳細な事例調査・分析へと進むことが可能な状況である。ヴァヌアラヴァ島は陸地面積が大きいことと移動手段に制約があることから、全域を網羅することは容易ではなく、北西部など未踏査の地域が残る。また、詳細な平面分布図の作成はフィールドにおける時間的制約から十分に行えておらず、今年度の課題となる。現在、これまでに収集した遺構データの整理を行うとともに、遺構の形態と構築手法について暫定的な類型化を進めているところである。調査地では聞き取り調査も実施しているが、個別の遺構についての活動について言及するような情報は殆どないようである。しかしながら、多くの祭祀遺跡についてはその所有者が誰であったかを伝える場合が多い。またその「リーダー」がどのような性格を持つものであったかについても、現地での聞き取りや文献調査を進めている。生業と社会変化を探る鍵となる集約的農耕システムの形成については、ヴァヌアラヴァ南西部で水田跡をある程度マッピングすることができ、今年度の試掘調査に必要な基礎情報は既に整っている状況である。古環の変遷を探るための土壌サンプルを採取にも成功しており、現在、サンプル処理が行われている。
|
今後の研究の推進方策 |
原則として当初の計画に従い、調査・研究を継続する。本研究の最終目標は、ヴァヌアツ北部の民族誌研究に知られる位階階梯制社会(競争的非首長制社会)の成立や展開について、考古学や民族歴史学により通時的に考察することにあるが、その第一の課題は、分析の基礎となる石組祭祀遺構について整理し、具体的な様相を明らかにすることであり、この点に重点をおき計画を進める。スケジュールもこれまで同様、各年度7-9月頃に現地調査を行い、残る期間をデータ整理・分析・アーカイブ研究などに充てる。調査対象地であるバンクス諸島の一部地域においては、今後も遺跡確認調査を継続するが、ヴァヌアラヴァ島南西部(祭祀遺構に伴う集約的水田農耕跡が顕著)とモタラヴァ島東部(多数の複合的祭祀遺構群を確認)については、重点的調査エリアとしてより詳細なデータの収集・分析と発掘調査を推進する計画である。祭祀遺構のなかには現在に至るまでタブーとされているものがあり、その傾向はヴァヌアラヴァ南西部において特に強く、同島東部やモタラヴァにおいては比較的緩い状況である。従って、発掘調査を実施するにあたっては、祭祀遺構そのものの発掘は年代測定資料採取に限定した部分的なものとし、また表層遺物の採集からも形成時期を探る方針である。ただし祭祀遺構に隣接する居住地跡や農耕システム跡については制約なく発掘可能であり、複数地点において可能な限り試掘を実施し、当該時期の様相や通時的変遷を探る資料の獲得を目指す。研究の成果については、論文や学会発表の機会を利用して積極的に公表する予定である。国際学会発表については再来年度を見据えているが、現在、国内学術誌において太平洋島嶼地域における先史社会変化についての特集が決定しており、責任編集を務めるとともに、本研究を踏まえヴァヌアツ北部の事例について論じる予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度研究費の大部分は、主要な研究活動となるフィールド調査に使用する。特に次年度は7-8月の2ヶ月間、ヴァヌアツ共和国北部のバンクス諸島において、発掘を含む本格的調査の実施を予定しているため、旅費・長期間の滞在費に加え、調査補助者に対する人件費が必要となる。また現地調査により良好な年代測定資料が得られた場合、後半期にその分析に掛かる費用が必要である。
|