本研究は、縄文時代の埋葬遺構ならびに遺物、人骨資料について、考古学的かつ人類学的観点から集成、実査、分析をおこなうことにより、これまで「影響」や「移動」によるものと考古学的に解釈されてきた縄文社会転換期の実態について、人類学的観点を踏まえて究明しようとするものである。 平成26年度は、研究全体の総括、データベースの完成、研究成果報告書の作成をおこなった。具体的には、これまで集成した資料を整備しつつ、その不足を補う作業、実資料の調査をおこなうとともに、西日本における代表的な縄文時代埋葬遺跡である滋賀県滋賀里遺跡、兵庫県辻井遺跡、岡山県津雲貝塚出土試料の提供を受け、その放射性炭素年代測定を実施し、成果報告書に添付した。 本研究のもっとも重要な成果は、九州島から東海地方までの列島西部における、縄文時代埋葬人骨出土の179遺跡を集成し、各遺跡および埋葬人骨の年代を、可能な限り絞り込み、一覧として明示した点にある。これまで人類学的研究に伴う埋葬人骨の年代は、時代ないし大別時期区分に留まることが多かったが、実際の考古学的研究をおこなう場合には、こうした大別時期では不十分である。本研究では、この齟齬を解消し、より詳細な縄文社会動態を考究する上での、埋葬人骨の年代に関する基礎資料を提示することができた。 この成果をもとに分析できる課題は多く考えられるが、本研究では、考古学・人類学的研究にともに関連する課題として、抜歯と埋葬姿勢について検討を加えた。その結果、西日本においては、後期前葉に大きな画期があり、それが東日本からの影響である可能性について、従来の考案を追認した。さらに、本集成により確認した各型式・形態の盛行時期を根拠に、人類学的研究の上で標式的資料とされながらも、年代に不確定的要素の多かった資料について再検討を加え、より具体的な年代的位置づけを図ることができた。
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