研究課題/領域番号 |
23520950
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
米家 泰作 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10315864)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 心象地理 / コロニアル・ツーリズム / 朝鮮半島 / 中国東北地方 / 旅行記 / オリエンタリズム / 帝国主義 / 海外旅行 |
研究概要 |
本年度は当初の予定通り,主に次の3点の作業・検討を進めた。 1)近代期の日本人による海外旅行記目録の作成を進めた。資料のリストアップにあたっては,既存の文献目録を活用したほか,古書の購入や国立国会図書館での閲覧を進めた。対象とする旅行記は,個人的な観光旅行に限定せず,旅程と訪問地がたどれるものであれば,修学旅行や研修旅行,職務上の出張報告なども積極的に含めた。 2)上記1の作業と並行して,北東アジア(朝鮮半島・中国東北部)への旅行記に関して,旅行者の属性,旅行目的,旅行日程,旅行ルート,訪問地の情報を,「近代日本における北東アジア旅行記データベース」として整理する作業を進めた。これによって,例えば,特定の期間内に特定の場所を訪問した旅行記を一括してリスト化することが可能となる。また,個人的な観光旅行よりも,修学旅行や同業者団体等の研修旅行に関して,多くの旅行記が編纂されたことが確認された。なお関連して公表した論文「扶余神宮と史蹟」では,朝鮮半島南西部の扶余に関する旅行記の分析を活用した。 3)上記2の作業を通じて,当初の予想通り,近代期の北東アジア旅行には,時期によって若干の違いはあるものの,「満鮮の旅」と呼ばれる典型的な旅行ルートがあり,それは鉄路と航路に規定されていたことが判明した。修学旅行や研修旅行で訪れた日本人の多くは男性であり,彼らにとって数少ない海外旅行の対象が北東アジアとなっていた。このことは,近代日本人(特に男性)の対外的な心象地理のなかで,北東アジアが占める大きさと意義を示唆している。なお関連して公表した論文「「近代」概念の空間的含意をめぐって」においては,近代日本における朝鮮半島の心象地理の特色とその分析視点について言及した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記「研究実績の概要」で記したように,本研究においては「近代日本における北東アジア旅行記データベース」の作成が基礎的な意味を持っている。その作成に際し,古書として購入できた資料については,分析に十分な時間をかけることができる。しかし,複写に種々の制約がある所蔵機関で資料を閲覧する場合,旅程における詳細な訪問地を分析するに際して,例えば30分程度立ち寄ったに過ぎない地や個別の訪問先をデータとして採録すべかどうか,どの程度厳密に訪問地をデータベース化すべきなのかという問題が生じた。そこで,資料の量と質について見通しを得るために,当面はデータペースに収録する資料数の増加を優先させ,短時間の経由地,滞在地についてはデータベース化を見送ることとした。その結果,現時点での「近代日本における北東アジア旅行記データベース」は,当初想定していた精度には達していないが,2年次以降作業を継続し,完成度を高めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り,2年次には北東アジア旅行記にみる心象地理の分析を,3年次には北東アジアにおける観光地形成と旅行体験の関係の分析を予定している。いずれも,「満鮮の旅」において多くの訪問者を集めた訪問地を選び,また分析に適した旅行記を集中的に読み解くことで,課題に迫りたい。 ただし,「現在までの達成度」に記したように,初年次の作業は完成したとは言いがたいため,並行して資料の購入・閲覧・複写を進め,「近代日本における北東アジア旅行記データベース」の完成度を高め,公表の機会を持ちたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記「今後の研究の推進方策」に記したとおり,次年度の中心的な課題は北東アジア旅行記にみる心象地理の分析であるが,分析の焦点となる訪問地や資料の設定によって,再度閲覧・複写が必要な旅行記資料が多数あることが想定される。そのため次年度の研究費使用にあたっては,古書の購入,所蔵機関(特に国立国会図書館)への旅費,複写費を中心に執行したい。
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