北東アジア(朝鮮半島・中国東北部)は,近代日本において最も注目された海外旅行先であり,帝国日本の植民地形成にともなって,多くの日本人が訪問した。旅行者が旅行体験を通じて形成した心象地理(現地に対する地理的なイメージや理解)は,旅行記の執筆を含め,様々な形で本国に還流したと考えられる。そこで本研究では,単行本として刊行された旅行記に着目し,その目録を作成するとともに,旅程の広がりや変化,旅行者の属性を確認し,彼らの旅行体験と心象地理の関わりを検討した。旅行者の多くは,似通った旅程を受動的に周遊し,もっぱら日本の影響力や支配力を表面的に確認する旅を行い,植民地的な観点から心象地理を形成した。
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