研究課題/領域番号 |
23520955
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研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
石丸 哲史 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (50223029)
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研究分担者 |
友澤 和夫 広島大学, 文学研究科, 教授 (40227640)
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キーワード | 開業率 / 廃業率 / 創業支援基盤 |
研究概要 |
平成24年度は、①開業率に関する情報ソースの検索・データの収集およびデータ分析、②創業支援にかかわる地域環境の把握を行った。①では、「事業所・企業統計調査」および「平成21年経済センサス-基礎調査」にある、開業数および廃業数に関するデータを分析し、都道府県別の時系列的分析を試みた。また、主要都道府県では市町村単位あるいはそれ以下の空間単位に下した分析をGISによって行った。さらに、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターから貸与された、日本政策金融公庫総合研究所寄託の「新規開業実態調査」のデータを適宜加工しながら空間的分析も行った。②では、昨年度に引き続き、創業支援サービスを提供しているサイトを民間と公的部門の両方において検索し、データベースを作成した。これをもとに公的な創業支援機関を訪問し、創業支援基盤に関する情報収集を行った。 都道府県単位による開・廃業率の地域的特性の分析では、我が国経済が景気の谷にあたるときには新規ビジネスは停滞し、景気が回復しプラス成長のもとでは大都市圏において新規ビジネスが活発に生起した。しかし、地方圏ではこのような傾向は見られないことがわかった。この点などを人文地理学会において発表したが、フロアから業種的特性の存在を指摘され、今後の課題とした。また、「新規開業実態調査」データは、全国を六地方に区分したものであり、詳細な地理的分析に耐えるものではなかった。しかし、起業家の起業軌跡の分析によって、起業に際して地方から大都市圏の移動が少なからずあることが認められた。 また、地方と大都市圏を比較するための調査では、大都市圏では新規開業の中に企業のスピンアウトによるものがあることが判明し、また地方圏では、インキュベータ施設と経営に関する知識供与による積極的な起業支援を公的部門が大きく担っていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は(1) 開業率に関する情報ソースの検索・データの収集およびデータ分析、 (2) 創業支援にかかわる地域環境の把握を行った。(1)については、統計データを適宜加工し、研究目的に適った分析を行っただけでなく、小地域に分析単位を下しGIS分析によって詳細な知見を得られた。この成果は、学会発表のみならず、北海道の公的な創業支援機関に送付し、先方の業務支援に努めた。しかしながら、日本政策金融公庫総合研究所が実施している「新規開業実態調査」のデータを東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターから借用したものの、このデータが六地方区分した空間単位であるので、詳細な空間分析ができず起業家のおおまかな軌跡しか明らかにすることしかできなかった。この作業のために、研究補助への謝金など多くの費用を想定していたが、結果としてこの部分の費用は少額となった。もっとも、この起業家のライフパスからみた起業活動の軌跡は、大都市圏と地方圏の創業支援環境の差異を明確にするものであり、今後の研究に大きく役立ったので、この内容を来年度学会発表するつもりである。 (2)については、昨年度に引き続き、創業支援基盤のサイトからその特性を分析したが、地方における創業支援機関に出向くことによって、創業支援環境の把握だけでなく、起業家へのインタビューの仲介の受諾に成功したことは、当初想定していなかった成果であった。また、研究を遂行していくうちに我が国の特殊性を次第に認識するようになり、そのための内外比較が必要となったため、インキュベーション機能が豊富であるアメリカ合衆国大都市圏における調査を実施し、経営のノウハウ支援というよりは、実際の業務に直結した支援であるということがわかり、今後の研究を遂行する上で大きく役立った。 以上のことから、総合的には「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、(1) 開業率に関する情報ソースの検索・データの収集およびデータ分析 、(2) 創業支援にかかわる地域環境の把握を行った。(1)では、研究成果を学会にて発表した結果、業種別検討の必要性を認識した。「ものづくり日本」と呼ばれる我が国では、製造業とその他産業と間には、起業行動や創業支援体制に大きな違いがあり、これらの産業配置の違いが結果として企業開業や創業支援環境の地域的差異につながることがわかった。一方、(2)では、この問題意識のもとで北海道における創業支援機関やインキュベーション施設を調査し、我が国の特殊性を認識するとともに、海外における状況も把握することができた。そして、業種と地域を両軸としたマトリックスを描きながら今後の研究を遂行していく必要性を感じ、研究のフレームワークがより明確になった。 以上のことから、当初予定していた次年度計画である「創業支援にかかわる地域環境の把握」に向けて、本研究の特長といえる「定量的および定性的アプローチ」のうち、後者に重点を置いて、今後研究を展開することができそうである。すでに仲介の内諾を得ている起業家へのインタビューや創業支援環境の国内外における地域的差異の把握など、新たな課題も現れたが、次年度の計画を一部前倒しして今年度研究を実施したので、今後大幅な研究従事時間の増加は予想しておらず、次年度以降も計画通り研究を推進することができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では、「創業支援にかかわる地域環境の把握」に向けて、定性的アプローチに重点を置いて、研究を展開する。まず、創業支援環境に関する内外比較と国内における地域的差異の明確化のために現地調査を行う必要がある。今年度の調査に加え、次年度では国土縁辺地域とともに大都市圏における創業支援環境の把握に努める旅費が必要である。また、我が国の状況の特徴をより明確にするため、イギリスロンドンで開催されるビジネススタートアップのエグジビションに参加し、創業支援企業の調査を行い、我が国の状況と比較するための旅費も必要とする。さらに、起業家へのインタビューに必要な謝金および訪問のための旅費も必要となる。以上のことに必要な費用を計上している。 先述のように、日本政策金融公庫総合研究所が実施している「新規開業実態調査」のデータを東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターから借用したが、このデータが六地方区分した空間単位であるので、詳細な空間分析ができず起業家のおおまかな軌跡しか明らかにすることしかできなかった。この作業のために、研究補助への謝金など多くの費用を想定していたが、結果としてこの部分の費用が少額となった。上記の追加的研究を次年度遂行する必要があり、研究費の不足が予想されたため、この余剰分を上記研究に充てるべく次年度へ研究費を繰り越した。 このように、24年度研究費の一部を繰り越し次年度使用予定額と合算したのは、研究遅滞というよりは、最終年度である次年度における追加的研究のための資金確保である。すなわち、研究を前倒しして行ったものも含め、若干の計画変更に伴うものであり、次年度における研究に従事する時間と所要の費用算出は合理的であり、適切な執行を見込んでいる。
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