本年度は、明治期から大正期にかけての建造環境の生産をめぐる都市社会の状況およびその際の軍隊の役割などを検討するため、以下の資料調査を実施した。 ①広島市と佐世保市を対象にして、大正中期の都市社会の衛生状況、都市化、近郊農村との関係などを考察するため、し尿処理をめぐる諸問題について調査を実施した。広島市の場合、大正9年から10年にかけて周辺三郡の農家によるし尿汲み取り料金値下げが発生し無視しえない都市社会問題に発展したこと、また佐世保市の場合、大正7年頃からくみ取りの市営化の動きが始まり、それが都市農村関係や軍に影響を与えたことなどが明らかとなった。 ②福岡市と下関市を対象として、師団などの誘致の動きと地域政治状況について調査を実施した。明治期に、港湾整備が都市発展の重要課題となっており、有力商工業者は、大陸および半島と福岡・博多、下関の歴史的な関係を強調しつつ、博多港と下関港の整備を国家プロジェクトに押し上げる試みを繰り返していたことが明らかとなった。その際、商業的利益が中心にあったが、福岡市と下関市の軍事的位置の重要性が強調されるなど、言説のレベルではあるが、都市発展と軍隊誘致が結びついていた側面が確認された。 ③近年の都市社会地理学と歴史研究の動向について、整理と検討を行った。その結果、民衆レベルでの都市社会運動の可能性、建造環境(特に「都市コモンズ」)をめぐる紛争、都市装置と統治をめぐる政治、などの諸論点に関する研究の蓄積が進んでいることが確認できた。 ④研究期間全体を通して、軍施設の誘致をめぐる政治過程および軍施設の設置が地域社会とその基盤整備に及ぼす影響について、仙台市と広島市を中心に新たな知見を得ることができた。
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