研究課題/領域番号 |
23520960
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
香川 雄一 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (00401307)
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キーワード | 韓国 / アメリカ合衆国 |
研究概要 |
当初の研究目的であった、沿岸域の漁業者による環境運動への主体的取り組みを明らかにしていくために、琵琶湖に関する環境運動において、日常的に沿岸域で生産活動に従事している漁業者を対象とした聞き取り調査を継続して実施した。 琵琶湖の環境問題に関して、発生時やその後の環境運動において、必ずしも漁業者が中心的存在であったとは言えないが、水質の変化や沿岸域の土地利用変化による漁業環境の悪化に対して、漁業者組織が漁場における問題認識に基づいて問題提起をしていたことを確認できた。漁業者による環境保全活動は、沿岸域の環境管理における産業としての取り組みだけではなく、持続的な自然環境の維持にもつながる役割を果たしていたことが分かった。 沿岸域管理における環境政策と住民参加の国際的比較として、継続して韓国とアメリカ合衆国における沿岸域の地域で調査を実施した。行政主導の環境政策だけではなく、産業や地域を主体とした環境保全活動が試みられてきていることを確認できた。国内外の沿岸域における環境政策では、どこも利害の一致が難しく産業間の調整も必要となる。漁業だけではなく、都市住民や工業、農業あるいはレジャー産業による水面の利用方法から課題と展望を導き出すことが重要である。調査から得られた資料を基に、日本や世界各地の沿岸域で生じている環境問題として、その解決策を比較、検討するための準備作業に取り組んだ。 環境保全への取り組みに関しては、各国・各地域における環境思想の影響が沿岸域管理にも及んでおり、具体的な沿岸域の事例に基づき、時系列的な環境活動の実態解明を進めていくことにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去に実施した研究実績を踏まえて、埋め立てや工業化などをきっかけとした開発事業による沿岸域の変容と、漁業集落単位の地域的な変容を地形図、空中写真、統計データ等から明らかにしつつある。国内外での沿岸域の環境変化を把握するための資料収集とともに、漁業者に対して聞き取り調査を行った。 日本と韓国については公刊の地形図を収集することができた。アメリカ合衆国の沿岸域に関しては一部のミクロスケールの地図は収集したが、やや広い範囲ではインターネット上で公開されている地図や空中写真に頼ることになった。沿岸域の改変を理解するための文献は翻訳文献と原著の両方を収集した。 既存研究に対する批判的検討においては、時代背景や地域的差異にもよるとはいえ、沿岸域のステークホルダー間の利害関係の解明がまだ不足していることと、生業にも配慮した持続的な環境管理への政策誘導が重要であることがわかってきた。沿岸域における環境政策には、産業としての漁業政策にも目を配った政策過程分析が必要である。 漁業集落の絞り込みに関しては、日本と韓国ではほぼ想定した条件で、選出が可能であることが分かった。一方で、アメリカ合衆国の沿岸域は湖沼の面積が膨大であることに加え、産業の立地条件が日本や韓国とは異なるため、漁業に限らず沿岸域管理の環境政策を分析可能な場所を選定できるように条件の幅を広げた。 各種資料調査と現地調査によって、沿岸域における地域社会の変容と生業の変化を環境問題の観点から解明するための、材料がそろいつつある。よって本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間の調査において、国内外の沿岸域における漁業集落を訪問し、資料収集や漁業者への聞き取り調査を実施してきた。沿岸域における環境問題に対して、水質や土地利用の変化といった統計データから明らかにできる指標だけでなく、沿岸域の生業である漁業の変化からも、要因として示せるように材料を集めてきた。 文献や地図などの資料に関しては、ある程度、納得できる収集を果たせてきているが、調査地数や調査期間の観点からいうと、まだ研究目的の実現には物足らない。本研究の最終年度ということもあり、時間的にも限られているのだが、国際比較の対象地域の数を少しずつは増やしていきたい。そこで他の研究グループの調査にも同行しつつ、沿岸域の対象地域を追加で訪問することを考えている。 研究対象地域の環境政策を検証するためにも、各国や各自治体の事例把握は必要である。環境運動や住民参加といった視点でも、各地域の沿岸域がどのように変容してきたかを、現地で確認しておく。 それらの成果として、沿岸域の環境変化と漁業者による環境運動を各国、各地域で比較することによって、沿岸域の環境管理に蓄えられてきた知見を総括する。環境問題の発生において行政だけでなく地域住民や在来産業が、どのように関わっていたのかを明らかにし、今後の沿岸域管理における環境政策の提言につなげていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでの2年間は設備備品費の使用を中心に、研究のインプットにかかわる経費を重点的に支出してきた。調査に関する旅費も多額の経費を充当してきたが、調査スケジュールの問題もあり、当初の予算配分と比べて、やや少額しか支出できていなかった。本来、3年目は調査の成果発表に使えるような予算配分とすべきである。学会発表や論文作成の経費を見込んではいる。ただし上述の理由と、研究の進展上の都合から、調査事例を加えていく方針を示したので、追加調査の旅費にも充当することにする。 なお、個別の経費に関して、設備備品費については、随時、必要になった関連書籍資料や調査発表に必要な機器類を購入する。消耗品費としては記録メディアやプリンタトナー、論文の別刷のために使う。旅費は国内及び海外の沿岸域における追加調査、および学会発表時を予定している。謝金はデータの処理作業に使う。資料が集まってきているので、入力者用に充当している。研究成果の発表のための経費としても用いる。 当初、計画した予算配分に比べて、ややアンバランスな経費構成になってしまうかもしれないが、研究の遂行上において適宜、計画を修正していく必要が生じたためであり、研究の全体の流れとしては大きな変更はない。
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