研究課題/領域番号 |
23520961
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
山崎 孝史 大阪市立大学, 文学研究科, 教授 (10230400)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 沖縄 / 軍事化 / 場所 / 政治地理学 |
研究概要 |
平成23年度の調査対象地域は嘉手納空軍基地の「門前町」を形成する沖縄市コザ地区であった。嘉手納基地の機能は極東最大といわれるが、沖縄市では基地の被害・恩恵をめぐる政治社会的対立が激しく、保革が拮抗する政治風土である。嘉手納基地はその重要性から当面返還の見込みはなく、復帰後の円高や郊外化に伴うコザ地区(中心市街地)の衰退は著しい。しかし、基地経済(軍用地料収入、軍雇用、その他商業・サービス需要)からの脱却をめざす再開発の試みは失敗し、1990年代末から再開発の方向性を地域資源(軍事化の歴史や文化)の活用へと転換しつつある。研究代表者は既に旧コザ地区を中心とする米軍による復帰前の性病管理政策(Aサイン制度)の解明を中心に、地域社会軍事化の諸相を明らかにしてきたが、この研究成果をふまえ、復帰後の沖縄市がどのように駐留米軍への社会経済的依存関係を変容させてきたかを検討した。研究代表者が現在関わっている『沖縄市史戦後編』編纂事業の推進母体である沖縄市総務部総務課市史編集担当および沖縄市戦後文化資料室ヒストリートの協力を得て、沖縄市の対基地政策の変遷とその背景について地方紙・市議会議事録・行政資料など文献調査、行政担当者、軍用地主・自営業者組織・自治会関係者からの聞き取り調査を行った。また沖縄市経済文化部にぎわい創造室市街地活性化担当、沖縄市中心市街地活性化協議会、まちづくりNPO コザまち社中、かつてA サイン店であった飲食店営業者等に聞き取りを行い、諸事業・活動に含意される軍事化・軍事優先主義の記憶・経験、それとの交渉、それからの離脱、その再活用の様相を浮き彫りにし、事業成果の分析を行った。これらの調査を通して、脱軍事化を目指しつつも、軍事化の地域史や基地の現存と切り離すことができない中心市街地活性化事業の可能性を探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画通りに米国における文献調査と沖縄における現地調査を実施したが、現地調査の実施が2012年2月であっとことと聞き取りに関わるデータが長時間に上ったため、調査結果の分析(書き起こし)が平成24年度にずれこんでいる。
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今後の研究の推進方策 |
24年度の調査対象地はキャンプ・ハンセンが町域の大部分を占める金武町である。キャンプ・ハンセンの返還も当面予定されず、むしろ町外の米軍通信施設が基地内に移設されている。金武町は北部の農村であり、農業以外の産業はぜい弱で、かつては多くの移民を輩出した。基地経済(とりわけ軍用地料、基地関連補助金)への依存も強く、それが重要な地域収入となっている。キャンプ・ハンセン前に復帰前に形成された新開地(米軍向け飲食店街)は復帰後に衰退したが、近年新開地を観光地化する試みが着手されている。そこでまず、現在の金武町における基地と地域振興との関わりを理解するために、金武町企画課・産業振興課・基地跡地推進課ならびに金武町商工会での聞き取りを通して本町における基地所在市町村活性化特別事業の全容を把握する(第1回調査)。次に、これら地域振興の試み(遅れ)が、金武町の軍事化された戦後史といかに関わっているのかを明らかにするために、金武町教育委員会社会教育課町史編纂室の協力を得て、地方紙・町議会議事録・行政資料を収集・分析する(第2回調査)。金武町は強固な保守地盤、つまり基地を容認する政治風土であり、その背景は軍用地主をはじめとする軍用地料に依存する階層であると推定される。町内の伊芸地区では軍事演習をめぐって長年反対運動が継続されているが、町全体が基地反対に動くことはほとんどなかった。したがって、こうした基地経済依存の政治社会構造を明らかにするために、元政治家・行政担当者ならびに金武町軍用地等地主会および軍用地料に依存する地区(自治会)への聞き取りを行う。あわせて農業生産構造と営農者の意欲と基地に対する意識、さらに伊芸区での反対運動の歴史・現状を把握する(第3回調査)。
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次年度の研究費の使用計画 |
現地調査は3 回(9 月、12 月、2 月に各一週間程度)実施し、23年度の調査結果を国際政治学会世界会議(スペイン・マドリード市)にて発表するための旅費を計上する。さらに調査・研究を補佐する大学院生を一名雇用し、その謝金を計上する。
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