研究課題/領域番号 |
23520969
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研究機関 | 京都学園大学 |
研究代表者 |
佐々木 高弘 京都学園大学, 人間文化学部, 教授 (20205850)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 環境知覚 |
研究概要 |
本研究の目的は、古代から近世にかけて成立した日本各地の都市が有する神話的伝承から、物理的形態を有する実在的空間としての都市と、伝承に見られる当該都市に居住していた人々の心理的空間としての都市の比較を行うことである。平成23年度においては、京都と大阪を研究対象とし、伝承の収集とデータベースの作成、京都の場合、平安京から近世の京都にかけての都市復原図、古地図、大阪においても、難波宮から近世大坂城下町絵図を収集した。これら作業において物品購入費および謝金を使用した。 次に伝承で語られた場所を古地図等で確認し、現在の地形図で場所の復原作業を行った上で、現地調査を実施した。平安京には様々な伝承が多数残っているが、伝承されている場所の様子は現在とは異なる。そのため平安京の復原図、および近世の古地図と照らし合わせながら現地の状況を写真撮影、ビデオ撮影を行った。また平安京の成立する以前の長岡京、その都市計画の原点となったと考えられる枚方市、交野市、葛城山、橿原市等においても伝承の現地調査を行った。平安京の伝承をこのように都市成立の原点にまで遡って考察した事例は少なく、その点においても本作業は意義がある。特に枚方市・交野市の伝承に語られる場所の現地調査は、長岡京の都市プランニングとの関わりが濃厚で、都市形態におよぼす伝承の影響力を提示する意味でも、本研究の重要性を指摘することができる。また京都市内の伝承の現地調査も随時行った。 大阪の伝承についてもデータベースを作成した上で、古地図と現在の地形図の比較作業を行い、場所を特定した上で、現地調査を行った。大阪の場合は住吉大社、南河内の伝承をはじめ、現在の船場、島之内、上町台地、日本橋、天満周辺を重点的に調査した。これら作業においては旅費を使用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
京都の伝承の収集、データベース化はほぼ終了した。またそれにもとづく現地調査もほぼ終了している。大阪の伝承の収集、データベース化もほぼ終了し、現地調査はいくつかの点において終了していないが、現在までの達成度はおおむね順調と言える。 これら作業と現地調査の資料に基づいて、実在的空間としての京都(長岡京・平安京から近世の京都)の形態と、伝承に表出する居住者の心理的空間の比較作業においては、伝承の場所の分布図を作成し、平安京を中心にどの方位にどのような伝承が蓄積されいるのかを見ていった。その結果、伝承の背後にある社会階層(天皇から貴族、僧侶、神官、陰陽師、武士、庶民)や宗教思想、世界観と伝承の位置する方位の関係を見いだすことができた。またこれら伝承の場所が平安京を中心に重層的に位置づけられ、また循環していることも見いだせた。これら研究成果については現在、単行本として出版準備中であり、この点においても達成度はおおむね順調であると言える。 大阪に関しては、現在伝承の分布図を作成し、京都とは異なる都市住民の心理的空間を見いだしているところである。また江戸時代に経済的な中心地であった大阪は、京都とは質の異なる伝承を多く有していることが明らかとなった。これらの特性と伝承に語られた場所の分布の関係を、現在見いだそうとしているところである。このように大阪については、京都の遅れはとっているが、全体としてはおおむね順調に研究目的が達成されている。
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今後の研究の推進方策 |
24年度はこれまでの京都・大阪の研究と平行しつつ、同様の研究を江戸・東京において行う。江戸・東京の伝承の資料調査においては、東京の図書館等で伝承の収集を行うとともに、特に江戸時代の怪談集等に焦点を当て、データベース化の作業を行う予定である。データベース作業においては、作業補助者に対して謝金を使用する。 江戸においても古地図の収集および、現在の地形図との比較作業を実施する。これら資料・古地図収集については、物品費・旅費を使用する。その上で伝承の場所の特定作業、現地調査で写真撮影、ビデオ撮影を行う。この作業においては旅費を使用する。 24年度においては、いままで撮影してきたビデオをデータベース化するために、編集用のDVD録画機を購入し、各都市で伝承の舞台となった土地が、古地図と比較してどのような特性があるのかを視覚化する。 江戸時代、京都・大阪とちがって江戸は政治の中心地であった。各地方から江戸に滞在する武士たちと町民たちの文化の違いが、伝承に描かれた場所にどのような影響を与えているのかを見いだすことも予定している。江戸においても京都や大阪同様に、伝承を所有する社会階層、宗教、世界観の違いが、形態としての江戸城下町のどの方位に分布の差異を生じせしめているかを探り出す予定である。 以上、これら作業を繰り返して、近世江戸城下町の物理的都市空間形態と、居住者の心理的都市空間の比較を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度の物品費としては、伝承で語られた場所の現地調査を実施し、伝承地周辺の文化景観のビデオ撮影を行い、近世の風景と現代の風景との比較を行う映像資料を蓄積し、編集するためのDVD録画機を購入する予定である。 次に江戸の伝承資料『耳袋』『江戸怪異奇想文芸大系』等の購入、さらに各時代ごとに作成された江戸城下町絵図(『江戸古地図集』・『続江戸古地図集』・『その他の江戸・江戸周辺東京図』など)、明治期の陸軍参謀本部の地勢図の購入費として物品費を使用する。 消耗品費としては、地形図やこれら作業上においてデータを保存するための、フラッシュメモリーや映像資料を保存するためのDVDーR、写真撮影のためのピクチャメモリー等の購入費にあてる。 旅費は、図書館での資料収集、現地調査のための東京出張費として使用する。謝金は資料のデータベース化作業の補助者に、その他としては、資料の複写費、資料の送料、現地調査に際するレンタカーの費用として使用する予定である。
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