研究課題/領域番号 |
23520975
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
作道 信介 弘前大学, 人文学部, 教授 (50187077)
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研究分担者 |
太田 至 京都大学, 学内共同利用施設等, 教授 (60191938)
河合 香吏 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (50293585)
波佐間 逸博 長崎大学, 学内共同利用施設等, 助教 (20547997)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | エンボディメント / マッサージ / ヘルスケア・ローカリティ / 干ばつ / 医療化 / 国境地域 / 援助医療 / ヘルスケア |
研究概要 |
(1)研究の目的:本研究の目的は、1980年代の大干ばつ以降、北西ケニア牧畜民トゥルカナに出現した病気「糞肛門」のマッサージ治療の地域比較である。糞肛門とは、便秘を主症状とし多様な症状を示す地域特有の慢性病で、治療はマッサージである。私たちは糞肛門を「治療者と病者が病気の身体を手で揉みながら、そこに干ばつ後の社会変動を読み込んだ新しい病気」と仮説した。その身体はマッサージによって伝わり、人びとの苦境を体現化する共通の身体(エンボディメント)となった。それは犠牲者としての民族的な意識に連なる可能性がある。糞肛門には地域差や国境地帯の治療者(含異民族)の介在がある。本研究では、国境地帯を含む地域比較を通じて、糞肛門の分布を確認し、仮説を検討する。(2)具体的内容:1)これまでのマッサージ資料をまとめ、英文論文と日本語の単行本として出版、2)カクマ周辺でのヘルスケア・ローカリティ調査を継続、3)共同研究者間の班員会議を開催した。(3)意義・重要性:1)マッサージが具体的な身体構造に干ばつ以降の社会変動を読み込んでいることを指摘した。そのうえで、これまでの調査結果をまとめ、以後の調査の展望を立てることができた。2)当地域の土着の治療の発達には援助医療の導入がかかわっている可能性を指摘した。医療化は民間医療も活気づけるのである。3)ウガンダ・ケニア国境地域において、異民族間の治療協力についても探索的な調査の計画を立案した。以上、今年度は従来の調査結果の総合と成果の出版、ヘルスケア調査の継続、次年度の異民族調査の立案をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
具体的な作業課題は以下の3点である。それぞれに達成状況を記載する。1)カクマ周辺のヘルスケア・システムを把握し、そのなかにマッサージ師ら民族治療者を位置づけることから出発する。とくにカクマは東アフリカ最大規模の難民キャンプが設置され、医療化が進む地域である。継続的ヘルスケア調査により、医療化とともに「トゥルカナの病気」という自家治療の領域も活性化していることが見いだされた。2012年度日本アフリカ学会で発表予定である。おおむね順調に進展している。2)地域比較のために、北部、中部、南部にわけ、主要都市を中心に、ヘルスケア・システムの実態把握をおこなう。予備調査の段階である。マッサージに特化した調査の準備に」かかっている。マッサージに関しては、2011年度日本社会心理学会で発表をし、かつ単行本を出版してまとめた。やや遅れて進展している。 3)また、あわせて、ウガンダ・ケニア国境地域において、異民族間の治療協力についても探索的な調査をおこなう。研究分担者の調査が進んでおり、その情報交換から、異民族において同様の治療があることがわかった。次年度の調査につなげる。おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
カクマ周辺でのヘルスケア調査を継続しながら、他地域のマッサージの観察記録をこころみる。そのさい、マッサージ師の経歴に着目し、マッサージの個人差と地域差を区別する。また、マッサージを地域のヘルスケアのなかでとらえるようにする。今年度と来年度において、ウガンダ・ケニア国境地帯の広域調査を実現し、あるいは分担研究者の協力によって民族間比較につなげる準備としたい。調査とともに、成果の国際的な発信につとめる。2012年度では国際社会学会でのトゥルカナの占いについての発表(ブエノスアイレスでの学会発表のための旅費の一部)を予定している。引き続き以下の3点について研究を推進する。1)ヘルスケア・ローカリティ把握:地域のヘルスケア・システムを各治療エージェントの治療場面および。住民の病気対処行動を分析する。カクマを中心としたヘルスケア・ローカリティを記述する。2)マッサージの地域比較:ロキチョギオ、カクマ、ロドワ、ロキチャーでの予備調査を経て、調査地域を選定中である。同一地域の再調査も視野にいれている。3)ヘルスケアの民族間比較に向けて:ウガンダ・ケニア国境地帯で探索的調査をおこない、あるいは同地域の研究者との情報交換によって今後の民族間比較につなげる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は現場密着型のフィールドワークなので、ほとんどが旅費に使われる。具体的には1)ウガンダ-ケニアでのヘルスケア調査(研究代表者による調査)、2)分担研究者によるウガンダ牧畜民調査(研究分担者への調査旅費の配分)がある。 課題として予想していたよりウガンダ地域への調査日程、旅費がかかることがわかってきた。調査日数をしぼることなどで対応したい。また研究分担者との協力を密にする。
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