研究課題/領域番号 |
23520976
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
風間 計博 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (70323219)
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キーワード | 文化人類学 / 遠洋漁業 / 出稼ぎ / キリバス |
研究概要 |
本研究では、特殊な労働・生活環境である遠洋カツオ・マグロ漁船における海外からの出稼ぎ労働者に着目する。そして、文化的背景の異なる出稼ぎ者間および、出稼ぎ者と日本人漁業関係者との間の社会関係構築と維持、軋轢の回避や処理のあり方等を把握したうえで、多文化コミュニティの存続維持の機序を明確化する。 本年度は、昨年度に引き続いて理論的方向性を精緻化すべく、文化的他者との接触に関わる文化人類学・社会心理学等の論文・書籍を収集し、基礎的文献資料に基づく文献研究を行った。 また、外国人出稼ぎ者に関わる、日本の遠洋漁業の歩んできた歴史的経緯を明らかにするため、遠洋カツオ・マグロ漁業業界団体史の複写および実物の収集を行った。この資料によって、第二次世界大戦中に疲弊し切った遠洋漁業が復活させる方策や業界の組織化、ビキニの水爆実験による魚価低迷等の苦境への対応、さらに200カイリ以降、グローバリゼーション下の現在に至るまで、遠洋漁業が衰退していく様態を具体的に把握することが可能となった。こうした時代状況のなかで、キリバス人を含む外国人が遠洋漁船に雇用されるに至った諸条件を把握できた。 さらに、日本の漁業者側の固有な文化的地域性や漁船員の価値観に迫るために、枕崎等カツオ水揚げの著名な漁港を擁する地方自治体に着目し、市史・町史等の古書を収集した。加えて、漁業に関わる基本的な情報を得るために、カツオ漁の技術的概説書を収集した。このように、複数分野に関わる文献収集を行うことによって、本研究課題に関連する多角的な視点の習得に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は文献ならびに文献研究を中心に行った。とくに、遠洋カツオ・マグロ業界団体史は、非売品であるうえ当該団体の組織解散等により入手困難な文書資料である。また内容を見ても、日本のカツオ・マグロ漁業をめぐる具体的な事象が、第二次大戦から今日に至るまで時系列的かつ詳細に記述されており、今後の分析において重要である。
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今後の研究の推進方策 |
まず本年度に引き続き、研究課題に関わる多角的な文書資料の蓄積に努める。とくにカツオ・マグロ漁港を擁する地方自治体史の収集を行う予定である。また、本年度は文書資料収集に重点化したため、実地調査による一次資料収集が必ずしも十分であったとはいえない。この点を修正して実地調査を行う。 具体的には、カツオ一本釣りおよび巻網等、日本の遠洋漁船に雇用されてきたキリバス人出稼ぎ者の出身地において実地調査を遂行する。キリバス村落部には、日本漁船の出稼ぎ経験者が居住しており、日本における労働・生活の実態を彼らからの面談によって聴取することが可能である。また機会があれば、首都タラワにおいて、漁業訓練校のスタッフならびにキリバス人学生から、出稼ぎ状況や訓練内容に関わる情報を得る。さらに、日本からキリバスへの経由地であるフィジーのナンディは、出稼ぎ者が帰省するときに必ず立ち寄り、短期滞在する場所である。可能な限りそうした帰省者と面談して情報を得る。次年度の前半には、上記の通り文書および実地調査による資料収集を行い、後半から成果をまとめる作業に入る。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記、キリバス・フィジー調査のための海外旅費に主な支出を当てる。また国内旅費により、遠洋漁業の拠点である静岡市内の漁港において実地調査を行う。さらに、自治体史等、文書資料収集のために支出する。 なお、次年度への繰越額(約50,000円)が生じたのは、発注した古書が最終的に入荷せず支出できなかったという理由による。
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