研究課題/領域番号 |
23520979
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
柄木田 康之 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (80204650)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 移民 / 文化的アイデンティティ / ミクロネシア連邦 / グアム |
研究概要 |
研究代表者は,平成23年8-9月にミクロネシア連邦ヤップ島,ポンペイ島に3週間滞在し,在外ヤップ人アソシエーションの役員に対しポナペ島における「ヤップの日」に関するインタビューを行うと同時に,アソシエーション成員の葬送関連の資料収集を行った。また平成24年3-4月には米国グアム島に12日間滞在しグアム島で実施される「ヤップの日」についての聞き取り調査,アソシエーション主催のイースタ行事の参与監察を実施した。調査の期間中,ヤップ島,グアム島,ポンペイ島で,ミクロネシア移民に関するマスメディア資料を収集した。 ヤップ島においては,離島出身者の終末医療,葬儀の費用負担に対応する離島出身の在ヤップ公務員による募金制度が新たに創設され,患者・死者の治療・搬送の費用を補助していることがことが確認された。この費用負担には在外ヤップ州出身者も,居所にかかわらず,参加する。今年度の調査期間中,オレアイ環礁からフィリッピンに搬送された患者の,死後の遺体搬送を含めた,複雑な費用負担の事例が収集できた。これらの新たな葬送慣行に関する経済的負担に備えるため,ヤップ州出身者はさまざまな相互扶助の組織を立ち上げており,在外ヤップ州出身者の協会も相互扶助の重要な担い手であることが確認された。 在外ヤップ州出身者にとって葬儀は,アソシエーション活動とは区別され,親族の活動であると認識される協同の機会である。しかし葬儀は,親族の活動であると認識される一方,親族以外のヤップ州出身者との複雑な贈与交換活動を通じて,同時にヤップ州出身者としてのアイデンティティを喚起する機会であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は国境を越えて連携されるヤップ人の文化的アイデンティティの民族誌的研究によって,ヤップ文化を基盤とする脱領域的公共圏の構造の解明を目的としている。このためグアム島のヤップ人アソシエーションの中核的活動である「ヤップの日」を開催するための募金活動とアソシエーションのNPO法人登録の民族誌的調査を行うことを計画している。 平成23年度の調査では,アソシエーション自体の活動は季節行事の活動にとどまりグアム島では「ヤップの日」は開催されないことが確認された。一方,一部のアソシエーションの法人登録登録を行っており,調査では関連資料の収集を行った。またヤップ州離島オレアイ環礁で発生した重篤患者の海外搬送を起点とした一連の葬送慣行にヤップ本島,ポンペイ島,グアム島の親族関係者,アソシエーションが関与していることを示す事例を収集しえた。 上記のように当初計画に沿った資料収集が進展しており,今後の調査でも,個別事例収集を中心として,アソシエーションの活動を把握していく計画である。
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今後の研究の推進方策 |
在外ヤップ州出身者にとってアソシエーション活動と葬儀は,相互に区別されるが文化的アイデンティティを喚起する重要な協同の機会である。これまでの調査で葬儀については,海外への重篤患者の搬送,遺体の母村への搬送等の在外ヤップ人出身者にとって主要な課題を確認している。今後は,調査の期間を通じて,葬儀をめぐる贈与交換の事例を,親族ネットワークの役割とアソシエーションの役割の区分に留意して,収集していく計画である。一方,アソシエーション自体の活動は季節行事から「ヤップの日」の開催までの変動が確認された。したがって今後の調査では,役員のリーダーシッップの違い等を視野に入れ,アソシエーションの活動の隆盛を把握していく計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の調査では,アソシエーション活動の一つであるイースタ行事が24年4月に行われたため, 研究費の一部を24年度に支出した。 平成24年度の調査では,平成23年度に得られた成果を基にして,研究代表者は,8-9月にミクロネシア連邦ポンペイ島,米国グアム島に3週間滞在し,在外ヤップ人アソシエーションの規約の収集,役員のインタビュー,過去の「ヤップの日」の資料収集を行う。平成24年3月にはグアム島で2週間「ヤップの日」の開催準備活動への参与観察を実施する。調査の期間中,月例集会などアソシエーションの活動に随時参加する。研究期間を通じて在外ヤップ人アソシエーションに関するマスメディア資料を収集する。
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