研究課題/領域番号 |
23520979
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
柄木田 康之 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (80204650)
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キーワード | 移民 / 文化的アイデンティティ / ミクロネシア連邦 / グアム |
研究概要 |
研究代表者は,平成24年3月-4月,11月,25年3月-4月米国グアム島に合計30日滞在し在外ヤップ人アソシエーションの役員に近年のアソシエーション活動に関するインタビューを行った。また3-4月期はキリスト教復活祭,11月は感謝祭のアソシエーション成員ならびに家族としての活動の参与観察を行った。 当初の目標では近年3-4月に実施されてきたグアム島の「ヤップ記念日(Yap Day)」の参与観察を計画していたが,平成24年,25年ともに「ヤップ記念日」は開催されなかった。このためヤップ島アソシエーション会長に対し「ヤップ記念日」が開催された時期の活動の詳細な聞き取り,関連資料の収集を行い,「ヤップ記念日」が開催されなくなった経緯の聞き取りを行った。 「ヤップ記念日」と並んでクリスマス,復活祭,感謝祭はヤップ州を構成する個別の島嶼出身者が共同で祝祭を行う機会である。祝祭は出身島嶼で開催される場合と,個々の関連する家族と開催する場合が見られ,開催のパターンはそれぞれの島嶼出身者のリーダーシップに依存することが確認された。 「ヤップ記念日」や季節の祝祭における活動は縮小傾向にあるが,終末医療,葬送慣行における共同は,親族の活動と見なされる一方,アソシエーションが組織として贈与を行う機会である。このような機会の共同活動は,アソシエーション活動の縮小傾向とは対照的に,ヤップ出身者としてのアイデンティティを喚起する重要な機会であり続けていることが確認された。 ヤップを含めたミクロネシア地域からの移民は米国政府関連文書,マスメディアではインパクト移民と呼ばれ,ホスト社会の移民関連する政策の経済的負担が協調される。このような論調に対し移民を擁護する政府,NGO等の論調がある。これら議論の論点は移民アソシエーション,親族ネットワークの諸活動の関心と一致しないことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は国境を越えて連携されるヤップ人の文化的アイデンティティの民族誌的研究によってヤップ文化を基盤とする脱領域的公共圏の構造の解明を目的として。このためグアム島のヤップ人アソシエーションの中核的活動である「ヤップ記念日」を開催するための募金活動とアソシエーションのNPO法人登録の民族誌的調査を計画した。平成24年,25年ともに「ヤップ記念日」は開催されなかったが,「ヤップ記念日」が開催された時期のアソシエーション活動の詳細の聞き取り,関連資料の収集を行い,平成24-5年に「ヤップ記念日」が開催されなくなった経緯の聞き取りを行った。 終末医療,葬送慣行における協同は,親族の活動と見なされる一方,アソシエーションが組織として贈与を行う機会である。このような機会の共同活動は,アソシエーション活動の縮小傾向とは対照的に,ヤップ出身者としてのアイデンティティを喚起する重要な機会であり続けている。現在までにヤップ州離島出身の重篤患者の海外搬送を起点とした一連の葬送活動にヤップ本島,ポンペイ島,グアム島の親族関係者,アソシエーションが関与している事例を収集している。 一方,ヤップ出身移民の終末医療,葬儀に関する協同は,ホスト社会からは注目されない活動である。ヤップを含めたミクロネシア移民は米国政府関連文書,マスメディアではインパクト移民と呼ばれ,ホスト社会の移民関連する政策の経済的負担が協調される。このような論調に対し移民を擁護する政府,NGO等の論調がある。これら議論の論点は移民のアソシエーションとしての活動,親族ネットワークとしての活動の関心事と一致しないことを確認している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は国境を越えて連携されるヤップ人の文化的アイデンティティの民族誌的研究によってヤップ文化を基盤とする脱領域的公共圏の構造の解明を目的としている。ヤップを含めたミクロネシア移民は米国政府関連文書,マスメディアではインパクト移民と呼ばれ,ホスト社会の移民関連する政策の経済的負担が協調される。このような論調に対し移民を擁護する政府,NGO等の論調がある。これら議論の論点は移民のアソシエーションとしての活動,親族ネットワークとしての活動の関心事と一致しない。 ヤップ出身移民の関心の中心は「ヤップ記念日」の開催を中心とするアソシエーションの活動と,ヤップ出身の終末医療,葬送儀礼における協同である。「ヤップ記念日」にかんする活動は近年縮小傾向にあるが,終末医療,葬送儀礼における協同は,親族の活動ではあるが,アソシエーション活動の縮小傾向とは対照的に,ヤップ出身者としてのアイデンティティを喚起する重要な機会であり続けている。 今後の研究方針は第一に政府,マスメディアにおける移民に関する論点と,移民自身の親族,アソシエーションを中心とする関心の差異を明らかにしていく点にある。このため移民のアソシエーション役員,移民に関連する政府,NGO関係者に対し,関心の差異を明示したインタビューを計画している。また葬送儀礼への献金から明らかになったハワイ在住のヤップ出身者のアソシエーションに調査を拡大する計画である。具体的にはハワイ州ハワイ島ヒロを中心とするMicronesian United on Big Islandへ調査を拡大し,アソシエーション自体の活動とアソシエーション成員の親族関係者としての活動の民族誌的調査を計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の調査では,グアムの「ヤップ記念日」の関連活動の参与観察のため研究費の一部を平成25年度4月に支出した。 平成25年度においれは平成23年24年度の調査成果を” Deterritorialized funeral fund-raising as subaltern public sphere activities; a case of FSM migrants in Guam”として8月に英国マンチェスター大学で開催されるInternational Union of Anthropological and Ethnological Societies 2013年で発表する。 調査としては平成25年9月に3週間米国ハワイ州ハワイ島ヒロ市においてミクロネシア地域からの移民のアソシエーションであるMicronesian United on Big Islandを訪問し組織の規約の収集,組織の歴史・活動についてのインタビューをアソシエーションの役員に対して実施する。またアソシエーション成員の世帯調査を実施する。 また年度を通じて米国連邦政府,ミクロネシア連邦政府機関で公開される移民関連の資料・報告書を収集し,グアム島,ポンペイ島の地元新聞のホームページで有償で公開される移民関連記事の収集をおこなう。
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