マダガスカル北西部地方の村落における現行の国家の法と慣習法は、19世紀のイメリナ王国支配、19世紀末からのフランス植民地支配、1972年以降の国家による地域行政に関する法令、三つの歴史的相を通じて形成されてきた。その一方、北西部の村落における慣習法的秩序の形成は、村の集会や共同作業への参加経験の積み重ねだけではなく、牛牧畜や刃物の取り扱いや喧嘩の様式を経て身体化されている。北西部地方における<人民裁判>と呼ばれる住民による非合法な犯罪容疑者の処罰に対し、治安機関は不介入の対応をとっているが、その根底には、村落を単位とした人びとの秩序意識に対する、治安機関に属する人間自身の共感が存在する。
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