研究課題/領域番号 |
23520983
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
伊藤 泰信 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 准教授 (40369864)
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キーワード | 産業系エスノグラフィ / メタ人類学 / 日本・英国・米国 |
研究概要 |
本研究は、文化人類学(人類学と略)の手法が、産業・ビジネス界においてどのように「活用されているか」を、人類学者が観察しようというメタ人類学的な試みである。同時に、(広義の)ビジネス実務に資する人類学を申請者が実践的・内省的に検討する。一方で、人類学という知の幅を押し広げる可能性を持つものとして、人類学的手法を取り入れつつある産業界・ビジネス界の動向を積極的に捉え返し、かつ、他方で、広義のビジネス実務に人類学的がいかに資するか、その有効性と限界が探ろうというのが本研究の目的であった。具体的には(1)産業と人類学との関わり合いの歴史的・理論的(批判的)検討、(2)企業における人類学的手法の実務応用の日英米国際比較、(3)人類学(エスノグラフィ)の実務応用可能性についての実践的検討、および(4)将来的な人類学への展望の獲得を目指すというものである。 英国では昨年に引き続き、人類学者や実務者らの面談調査を行い、比較の視点から理論的・実践的な知見を引き出すことを試みた。米国では、とりわけ上記(2)に関連する調査を行った。米国の企業研究所のエスノグラフィサービス部門において、人類学的手法(エスノグラフィ)を援用したビジネス展開(事業内容・調査内容等)を、実地に即して把握するものであった。 進行中の調査・研究で得られた知見の一部については、いくつかの学会やシンポジウムで発表を行い、それを通じて研究者らと意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、上記(2)企業における人類学的手法の実務応用、および(3)人類学(エスノグラフィ)の実務応用可能性についての実践的検討について、これまでの日本の人類学者がほとんど着手してこなかった領域についての貴重な知見を得ることができた。 前述したように、人類学的手法(エスノグラフィ)を援用してビジネス展開を行っている米国の企業研究所のエスノグラフィサービス部門の調査を実施することができた。同部門は、モトローラ、大日本印刷、NECなどの諸企業や、自治体や病院などをクライアントとして、テクノロジー(モバイル通信機器、通信アプリケーション等)のユーザビリティをめぐる基礎調査や、顧客サービス業務改善に関する調査をおこない、ソリューションを提供・提案している。当該企業研究所において、例えば、シニアのサイエンチスト(エスノグラファー)は、病院をクライアントとして、EMR(電子カルテ、電子クリニカルパスをはじめとする医療情報)をめぐる医療従事者の実践についてのエスノグラフィに従事しているが、発表前の生データなども提示しつつ、意見を求められた。このように有意義かつ実践的な議論を展開し得た。さらには、エスノグラフィを用いた企業の差別化戦略(differentiation strategy)に関してグループリーダーらと意見交換も行った。 加えて、英国においてコンサルティング会社へのインタビュー調査も行った。例えばインタビュー対象の会社(マネージャーは、ロンドン大学で人類学博士号を取得)は、大手食品メーカやヘルスケア関連メーカなどをクライアントとして、ビジネスのインサイトや戦略に関するコンサルティングを手がけている。 こうした事象を具体的な手触り感とともに把握し得たことは達成度の1つである。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、すでに交流を進めつつある米国・英国の研究者・実務者らとの議論・意見交換をさらに継続しつつ、主として日本企業において活用・普及される人類学的手法(エスノグラフィ)についての実例をさらに調査する。 最終年度にあたるため、これまで得られた、日本企業のデータ、英国・米国での事例との比較を通して得られた洞察を元に、人類学的な知・手法の実務応用への展望を整理する。また、研究発表を国内外の学会等において行う。 これまでの調査等において、英米企業と日本企業との経営スタイルの差異が、人類学的な知・手法の実務応用の違いに影響していることが見出されつつあるため、日本企業の特質(日本的経営)との関係についての理論的考察も、更に推し進める。 加えて、企業における人類学教育の今後に、それらの洞察がいかに活かしうるか(アカデミアの外部、とりわけ日本企業への、人類学的素養をもった人材の輩出はいかにありうるか等)について知見を導き出す。 さらには、本研究の調査内容に関心をもつ日本人人類学者らとの協働(の可能性)についても模索することで、新たなプロジェクトの構築を将来的に目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
米国・英国におけるインタビューその他の調査のための海外渡航費を削減することができたため未使用の研究費が生じた。 平成25年度は、すでに交流を進めつつある米国・英国の研究者・実務者らとの面談・意見交換、インタビュー調査のための海外渡航費、国際会議での成果発表のための海外渡航費などに使用される。 さらには、日本国内の企業関係者との面談・意見交換、企業における参与観察調査・インタビュー調査のための国内交通費、調査データの編集のための機器、資料図書等にも使用される。
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