研究課題/領域番号 |
23520984
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
立川 陽仁 三重大学, 人文学部, 准教授 (20397508)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / カナダ / ブリティッシュ・コロンビア州 |
研究概要 |
本研究は、現在北米とくにカナダの先住民社会においてみられる政治・社会的リーダーの世襲制の復権の現状と、その背景を理解しようとする試みである。研究初年度となる本年度は、主として現状の把握と先行研究資料の収集およびレビューに費やすことにしていた。 現状を把握する目的で、9月にはカナダの北西海岸(太平洋沿岸)の先住民社会においてフィールドワークを実施した。期間は約1か月である。フィールドワークにおいては、クワクワカワクゥという先住民のあるクランとともに生活し、世襲制がいかに復権しているか、および世襲のチーフでない人間がいかに世襲の地位を求めて画策しているかなどの現状を理解することができた。 上記テーマに関する先行研究については、フィールドワーク前にある程度調査し、またフィールドワーク中にはカナダでも調査した。カナダではいくつかの文献を入手することができたが、それ以外にも北米先住民の政治的なリーダーシップに関する先行研究がいかに少ないかを痛感させられる結果となった。そこで帰国後は、北米先住民社会と同様に、能力主義的かつ平等主義的なリーダーと世襲のリーダーの緊張関係が確認されるオセアニア地域の先行研究を中心的に収集し、閲覧することにした。膨大な蓄積のあるオセアニア地域のリーダーシップ研究を読みこなしてきたいま、オセアニア地域研究で生まれた数多くの理論がどこまで北米先住民社会にあてはまるのか、あてはまらないのかを吟味している最中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、北米先住民社会において近年復権してきた世襲制の現状把握とその背景を理解しようとする試みである。本研究をはじめた当初から、このテーマについての先行研究が少ないことはある程度把握していた。そこで初年度となる2011年度は、現状の把握と先行研究の収集を中心的におこなうことを目的とした。 現状の把握については、9月に実施したフィールドワークにおいて、ほぼ達成できたと自負している。もちろん今後も調査は必要であるが、世襲制が復権しているだけでなく、世襲の地位をもたないコミュニティの有力者がなんとかして世襲の地位を得ようとしている事実、また政治的リーダーを投票で選んでいる(つまり世襲制ではない)コミュニティでも世襲のイデオロギーは有力である事実などを把握できたことは、きわめて意義があったと思われる。 先行研究については、数少ない北米先住民に関する研究をみつけることができたほか、膨大な蓄積のあるオセアニア地域研究をかなりの程度読みこなすことができた点が評価できる。現在は、オセアニア地域研究のなかで生まれた諸理論が北米にも通用するかを吟味しているところである。この作業についても概ね満足している。 ただ、現時点では、北米において世襲制が復権した理由にたどり着くことができていない。これについては3年間のうちに達成したいと考えているが、初年度のうちにある程度仮説レベルのものだけでも得たいと考えていたにもかかわらず、まだ仮説さえ立てていない状況である。これについては今後の課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、フィールドでの一次資料の収集と、文献調査をおこなっていくつもりである。 フィールドワークはこれからも実施していく。いまはある1つの先住民クランを中心におこなっているが、今後はそれ以外のクランの状況についても調査をしていくことになるだろう。これらの作業によってより多くの一次資料を得たいと考えている。 つぎに、初年度におこなった資料収集も引き続きおこなっていく。これまで、北米先住民社会とオセアニア地域に関する先行研究を読みこんできたが、その成果の1つとして、人びとがおこなう贈与や交換などの実践とリーダーシップとの深い関係が浮かび上がってきた。したがって、以後は贈与や交換についての理論的な文献などを中心に収集し、検討を加えることになるだろう。 現時点において、私はそれなりに満足のいく一次資料を獲得してきたし、文献資料も収集してきたと自負している。しかし本研究の最終的な目標は、先住民社会における世襲制復権の「なぜ」に迫ることだと強く信じている。この「なぜ」にはいまだ到達していないし、仮説すらたっていない。したがって、今後の研究においてはこの「なぜ」に迫るよう、もっとも有力な方法をとっていくつもりである。 なお、以後は、これまでの研究成果を随時発表していくつもりである。論文や口頭発表をあわせ、とりあえず次年度は3本から5本程度を発表したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度におこなう予定のことは、大きく3つある。 第1に、フィールドワークである。すでにある程度十分な量の一次資料を得てきたとはいえ、現地の社会変化についていくためにも、また現地のインフォーマントとの信頼関係を再認するためにもフィールドワークは欠かせない。そこで次年度も、1か月程度の調査を実施しようと考えている。 第2に、資料の収集である。フィールドワークの最中はもちろん、国内でも関連する資料を随時収集していこうと考えている。とくに政治的リーダーシップと贈与、交換との関係に関する理論書、民族誌を中心に収集することが必要であろう。 第3に、おもに研究室でおこなうことになる、データの整理および研究成果の発表がある。本年度、すでにフィールドにもっていくノートパソコン類は購入したので、次年度は研究室用のパソコンや、その他プリンタなどの周辺機器を購入していく必要がある。また、研究成果の発表については、印刷費や(口頭発表をおこなう場合は)出張費が必要となる。
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