研究課題/領域番号 |
23520984
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
立川 陽仁 三重大学, 人文学部, 准教授 (20397508)
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キーワード | カナダ先住民 / 政治的リーダーシップ / 平等主義と世襲制の復権 |
研究概要 |
本研究はカナダ先住民社会における政治的リーダー、世襲チーフの復権をめぐる社会的条件、背景を分析するものである。本年度はこれまでの文献調査とフィールド調査の成果をふまえ、2つの研究成果を発表し、またフィールドでの継続調査をおこなった。 フィールド調査は昨年度と同じくカナダのブリティッシュ・コロンビア州にある先住民居留地で9月から10月にかけて実施した。チーフの活動を追跡調査し、また地元の博物館の館長と対談している。 これらの成果をふまえ、まず『人文論叢』に「チーフはだれか(副題略)」という論文を発表した。これは数年前に実際にカナダであった裁判と先住民社会のリアクションを分析し、チーフに関していうと法的なものより社会的なもののほうが優位に働くことを例証したものである。この論文は2013年3月に刊行された。 また、それ以外にも査読誌向けに論文を2つ準備している。これらはまだ未完であるが、次年度中に書き上げ、発表したいと思っている。 これらの論文執筆以外に、今年度は口頭発表も実施した。3月、国立民族学博物館にて同館共同研究会「贈与論再考」の第3回研究会で「北米先住民、クワクワカワクゥのポトラッチにおける贈与と交換(副題略)」という題目の発表をおこなった。ここではポトラッチという儀礼における贈与と交換のシステムに関する、いまや常識化された前提が再検討を要するものであること、その際のチーフの役割が重要だということを、約1時間にわたる発表時間のなかで主張している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、研究初年度は文献およびフィールド調査に重点をおき、2年目と3年目にはその分析をおこなって発表する、なおかつ追跡調査をおこなうことになっていた。2年目となる本年度は、フィールドでの追跡調査を実施し、また分析をおこない、それを発表する用意をしたという点で、十分に当初の予定を達成している。 ただ、予定では、この2年目において、論文を2つ発表するつもりであったが、実際には1本にとどまった。これはおもにフィールド調査時の疾病が理由であるため致し方ないが、この点は悔やまれる。もっとも、この「充電」期間に新たな着想がわき、さまざまな哲学書を読むことで、さらにもう1本の論文にとりかかることができている点は高く評価できるのではないか。 本年度の活動をまとめると、当初からの疑問「なぜカナダの先住民社会ではいまさら古臭い世襲制が復権しているのか」という点は解消されなかったが、その答えに近づく多くのヒントを得られたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究の最終年度となるが、今年度と同じく、追跡調査、分析、その成果の発表にあてることになるだろう。だが、最終年度なので、おもに成果発表に強調をおきたい。 これまでと同様、カナダでのフィールド調査は実施する。ただし時期は未定である。主としてこれは、追跡調査としてのねらいがある。 分析とその成果の発表については、現在書きかけの2つの論文の完成にまずもって尽力したい。1つは「いかに世襲制が現在のカナダ先住民社会で復権したか」を扱うものであり、もう1つは先住民社会が儀礼その他の場で他の人々を歓待する有り様を問うものである。 そしてこれが年度内に終わって余裕があれば、最後に「なぜ平等主義がはびこった現在、世襲制が復権したのか」という「なぜ」にあたる部分に答える論文を書きたいと思う。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記のとおりである。
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