本研究では、徳島県を事例として各地の祭礼のお囃子のデジタルデータ化を行い、そのデータを名称・鳴り物の構成・奏法・リズムパターンなどの点から比較検討することを通じて、県下の祭り囃子が持つ構造性の特質を明らかにする。その上で、お囃子をその特徴からいくつかのタイプに類型化し、その地域的分布を検討することを通して、地域における「お囃子文化」の展開過程を明らかにすることを目的とする。本研究は、「お囃子」という祭礼文化の地域的な展開過程を空間・時間的な広がりのなかで実証的、立体的にとらえる新たな視点を導入しようとするものである。 研究期間内に、徳島県内の約100地点において祭礼関係者への聞き取り調査、および祭礼における観察調査を行い、お囃子の打ち子の人数・衣装・鳴り物の種別・配置、お囃子の種別と奏法、使い分けなどについて記録、祭礼当日に撮影した動画はデジタルデータとして整理した。最終年度は、全県的な補足調査20件ほどの実施と、データの全体整理を行った。 データ分析の結果、県下のお囃子は地域に応じて大きく県北型(大太鼓1・小太鼓2・鉦2)、県南型(大太鼓1・小太鼓2・鉦2・大鼓2・小鼓2)の二つに分かれることがわかった。県南では多くの鳴り物の掛け合いをともなう複雑なお囃子(拍子)が伝承されている。県南にはさらに三味線・歌が加わる「祇園囃子」の伝承が確認されたが、これは拍子の発展系と考えられる。県北のお囃子は県南に比べ比較的単純な構造である。そのほか、4人打ち(太鼓1)の山車(太鼓屋台、よいやしょ、御神楽)に関連したシンプルなお囃子が県西・県南の一部、吉野川流域に分布している。いずれの地域においても、祭りの中では複数のお囃子が場面に応じて奏し分けられていることが確認され、お囃子が単なる伴奏ではなく、儀礼の進行や場面転換に大きな役割を果たしていることが明らかになった。
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