本年は最終年度であるため、昨年度から大きな動きのあった地域において補充調査による情報の収集を行い、調査結果をふまえて成果報告書作成にむけた研究の位置づけや意義、今後の方向性に向けた枠組の設定の精緻化に努めた。具体的な実態調査は本研究開始以降に小学校の廃校が決まった島嶼社会である甑島で実施した。廃校以降に当該地区においてはコミュニティ協議会を中心に地域活性化の動きが加速化していくが、村落間の連携も活発化し広域的な地域共同体の創成がみられることを確認した。加えて当該集落の文化発信を意識した様々な企画が実施されようとしているが、これに対し、当該集落出身者が多く住む阪神間の郷友会からの様々な働きかけが認められた。阪神間に住む島出身者と島との相互関係についても前年に続き補充調査を行った。 本研究のテーマが地域(村落)がいかに崩壊・解体を内発的な力で阻止し、脆弱性を克服しようとしているのか、さらに高齢化や人口減少が進行してる村落の地域振興ということの意味を考察するものであるため、近年相次いで指摘されている「地方は崩壊しない」「村落は消滅しない」等の言説の事例として提示されている村落の情報収集も行った。初年度で会津の山村の短期調査を実施したが、本年は山口県山口市に合併された山村の短期調査も実施した。これまでの調査が村落解体阻止や脆弱性克服に向けて、いわば苦闘している過程に焦点をあててきたのに対し、当該調査は、むしろそのような「戦い」の段階は終了し、さらなる文化の発信地としてより強固な地域社会を構築しようとしている段階にある村落の今の状況を文献研究で得た知識をもとに確認しようとするものである。 現在、4年間にわたる調査研究に加え、本研究開始直前におこった東日本大震災からの復興課程も視野に入れた報告書作成の準備を整えつつある。
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