森林を焼畑や切替畑、常畑、採草地、放牧地、薪炭林に改変する生態民俗知や技術、生業活動、他の活動による副次的改変等の経緯を、文献、聴き取りによって明らかにした。北上山地山村において自給を含む生業活動が、森林の植生を必ずしも意識的ばかりではなく変え、結果として多様な自然環境が形成されてきた。こうしたヒトの干渉によって作られた二次的な環境が、イヌワシや草原性の昆虫、また古くは明治期のイノシシの例に見られるように、生物の多様性維持にも寄与していたことは興味深い。 また明治前期の「岩手県管轄地誌」の分析によって、北上山地の近代における山村の生業活動や野生動物の分布が明らかになった。明治期には北上山地ほぼ全域でシカ、イノシシが生息しており、今日のシカ、イノシシの北限分布の拡大は、かつての生息域に戻ろうとするものととらえられる。現在、野生動物の農林業被害への取り組みとして、モンキードッグやジビエとしての利用などがある。しかし本研究では今日よりも自給的であった明治の山村社会において、シカやイノシシの皮や、角、牙、骨の様々な利用を明らかにしており、こうした過去の利用をアレンジして現代に応用する際の基礎的な資料となり得る。 北上山地山村の野生動物による農林業被害の実態を広域におさえた上で、使役犬を導入して成果を挙げている下北半島で比較研究を行った。下北地方では、この地方のニホンザルが天然記念物であることもあり、昭和40年代から被害対策が試みられてきたが、電気柵とモンキードッグの併用で、今日一定の防除成果を挙げていた。一方、北上山地の釜石市では、モンキードッグの導入に失敗している。経緯を分析すると、使役犬の認知度が低く、導入に至る準備や条件が整理されていなかった印象が強い。 かつての山村の集落機能のひとつだった消防団の代替として救助犬を活用する可能性は、今後も検討していく価値があると思われる。
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