本研究は、カンボジアにおいて現在アビダンマ(Abhidhamma)教師として活躍する2人のカンボジア人女性修行者(ドーンチー)の活動とライフヒストリーを軸に、彼らがかつて学んだタイとカンボジア両国における俗人の教理学習の実態を俗人修行者・一般俗人仏教徒の実践全体を視野に入れつつ、明らかにすることが目的であった。 最終年度(平成25年度)、カンボジアについては前年度までに収集したデータ(プノンペンおよび近隣地域の寺院に止住する俗人修行者の生活実態に関する質問紙調査データと、上記アビダンマ教師への聞き取り調査)の整理と成果の一部の発表を行った。タイでは現地調査を再度実施、バンコクにあるアビダンマ学校のカリキュラム・試験制度・学修実態等を調べた。上記アビダンマ教師である女性修行者がかつて学んだ1990年代と比べ、現在のタイでは学習者の多くが僧侶・女性修行者(メーチー)から一般在家へと変化してきたことがわかった。 研究期間全体(平成23~25年度)を通しては、まずキー・インフォーマントであるアビダンマ教師2名の、タイでの教理学修史を含むライフヒストリー的データを詳細に収集できたことが大きな成果である。これに加えて、彼らのアビダンマの講義や、彼らのうち1人が講師を務めたカンボジア宗教省主催セミナーの参与観察も行った。教理教師を務める女性修行者はおそらくカンボジア初のことであり、セミナーに関する論考(高橋美和2014「教壇に立つ俗人女性修行者」)では、こうした指導的女性修行者の出現のインパクトについて考察を加えた。さらに、教理学習に必ずしも参加しない俗人修行者についても、質問紙調査(上述)により客観的・数量的に把握し、俗人修行者の全体像を視野に含めることができた。カンボジアの俗人修行者に関する研究はこれまで手薄であったが、このデータ・ギャップを一部埋めることができたと考えている。
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