研究課題/領域番号 |
23521000
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
安室 知 神奈川大学, 経済学部, 教授 (60220159)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 在来技術 / 水田魚道 / 文化資源化 / 自然再生 / 地域振興 / 水田稲作 |
研究概要 |
水田とその風景(それを作り出す在来の稲作技術)は日本の近代化の中で、生産域(生業)としての価値の他に、さまざまな意味が賦与されてきた。ひとつは、都市生活者にとって水田風景は田園へのあこがれを象徴するものとなってゆく。そして、もうひとつの意味としては、水田風景は人と自然との関係や環境問題を考えるときの重要な指標となってゆく。それは都市生活者にとって水田風景が田園憧憬の対象となっていたことと無関係ではない。おそらく田園へのあこがれの感情が、後に水田風景をして理想とさせる人と自然との関係や環境のあり方を模索するときのメルクマールとさせたといえよう。現代において、水田をめぐる民俗技術を文化資源化しようとするときの意図はそうした点にあるといえる。 水田をめぐる民俗技術の文化資源化をはかろうとするとき、ワイズ・ユースのような環境思想が重要な意味を持ってくる。在来の稲作技術が環境保全型農業(ときに環境創造型農業)であり、またワイズ・ユースと認定されるなか、高度経済成長とともに失われた水田の生物多様性と多面的利用を復活し増進させる技術として注目されたのが「水田魚道」や「冬水たんぼ」、「コイ農法」、「棚田」などである。 平成23年度は、とくに「水田魚道」に注目し、千葉県・長野県・高知県をフィールドとして、当該地域に水田魚道が導入された経緯とその意義について調査した。その結果、水田魚道は大きくは地域の環境保全と地域振興(村おこし)という2つの目的・意図を持って導入されていたことがわかった。水田魚道により水田に魚を呼び戻す試みは、コウノトリやトキの復活とも関連しつつ、まずは自然再生の切り札として各地の自治体やNPOによりさまざまに事業化されているが、そのことは行政的には地域の振興策のひとつに位置づけられている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、水田をめぐる民俗技術の文化資源化について、フィールドワークを通してその実態を記録することができた。とくに「水田魚道」に注目することで、ワイズ・ユースのような環境思想が重要な意味を持ってくることがわかった。 その点は当該年度の研究目的を達成している。しかし、高度経済成長とともに失われた水田の生物多様性と多面的利用を復活し増進させる技術は「水田魚道」だけではなく、もっと多面的に見てゆく必要があった。平成24年度では「冬水たんぼ」「コイ農法」「棚田」にもその検討の視野を広げる。 平成23年度は、東日本大震災の影響から東北地方におけるフィールドワークをすべて断念せざるをえなかったため、当初計画していた広汎な調査をおこなうことができなかった。そうしたこともあって、テーマを「水田魚道」に絞らざるをえなかった。
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今後の研究の推進方策 |
当初23年度に計画していた広汎なフィールドワークを引き続きおこなうとともに、調査地を2箇所程度に絞り込んだインテンシブな民俗調査を同時並行しておこなう。 水田魚道とともに、冬水たんぼ、コイ農法、棚田オーナー制による米作り、稲作体験による都市-農村交流、といった水田をめぐる民俗技術の文化資源化について、インテンシブな民俗調査をおこなう。調査内容としては、水田をめぐる民俗技術だけでなく、それを取り巻く社会、経済、信仰、儀礼といった民俗の諸相についても調査を進め、民俗調査報告書の作成を目指す。また、文字による記録にとどまらず、実見できるものについては、可能な限りカメラ・ビデオ等により映像記録化をはかる。 さらに、平成23年度から引き続き、文献資料の集成を進める。官公庁等の行政機関をまわり、水田魚道、冬水たんぼ、コイ農法、棚田オーナー制、稲作体験による都市-農村交流、グリーンツーリズムにかかわる行政資料を収集する。行政資料を用いることで、民俗技術に関する文化資源化の全国的な動向を把握し、行政の関与とその役割についても検討を加える。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初23年度に計画していたが、東日本大震災のために実施できなかった東北地方を中心とした広汎なフィールドワークをおこなう。また、調査地を2箇所程度に絞り込んだインテンシブな民俗調査をおこなう。 そのための旅費と調査データの文字化に23年度に執行できなかった分の経費を充てることとする。
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