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2012 年度 実施状況報告書

水田をめぐる民俗技術の文化資源化に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 23521000
研究機関神奈川大学

研究代表者

安室 知  神奈川大学, 経済学部, 教授 (60220159)

キーワード在来技術 / 冬水たんぼ / 文化資源化 / 自然再生 / 地域振興 / 水田稲作 / 民俗学
研究概要

水田とその風景およびそれを作り出す在来の稲作技術は日本の近代化の中で、生産域や生業としての価値の他に、さまざまな意味が賦与されてきた。ひとつは、都市生活者にとって水田風景は田園へのあこがれを象徴するものとなってゆく。そして、もうひとつの意味としては、水田風景は人と自然との関係や環境問題を考えるときの重要な指標となった。それは都市生活者にとって水田風景が田園憧憬の対象となっていたことと無関係ではない。
水田をめぐる民俗技術の文化資源化をはかろうとするとき、ワイズ・ユースやサステイナビリティのような環境思想が重要な意味を持ってくる。在来の稲作技術が環境保全型農業(ときに環境創造型農業)であり、またワイズ・ユースやサステイナブルな技術と認定されるなか、高度経済成長とともに失われた水田の生物多様性と多面的利用を復活し増進させる技術として注目されたのが「水田魚道」や「冬水たんぼ」、「コイ農法」、「棚田」などである。
平成24年度は、とくに「冬水たんぼ」に注目し、北海道・石川県・長野県をフィールドとして、当該地域に冬水たんぼが導入された経緯とその意義について調査した。その結果、冬水たんぼは当初、春の雪解けを早めるなど農業上の目的をもって導入されたが、後にはガン・カモやハクチョウといった冬の渡り鳥を誘引し、その越冬環境を整備することにその目的が大きく転換していった。土地改良以降、乾田地化が進んだ耕地にもう一度冬の渡り鳥を呼び戻す試みは、コウノトリやトキの復活とも関連しつつ、まずは自然再生の象徴として各地の自治体やNPOにより事業化されているが、そのことはブランド米を生むなど地域産業の振興策のひとつにもなっていることは注目に値する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

前年度は東日本大震災の影響から東北地方におけるフィールドワークをすべて断念せざるをえなかったため、当初計画していた広汎な調査をおこなうことができなかったが、本年度はその分も含め問題発掘のための広汎なフィールドワークをおこなうことができた。
また、そうした広汎なフィールドワークと並行して、本年度は水田をめぐる民俗技術の文化資源化について、地域を絞りインテンシブな民俗調査もおこなった。とくに「冬水たんぼ」に注目することで、ワイズ・ユースやサステイナビリティーのような環境思想との関わりを明らかにすることができた。
以上の点は、前年度の不足を補いつつ、当該年度の研究目的をほぼ達成している。ただし、高度経済成長とともに失われた水田の生物多様性と多面的利用を復活し増進させる技術は「冬水たんぼ」だけではなく、もっと多面的に見てゆく必要があるため、平成25年度では「コイ農法」や「棚田」にもその検討の視野を広げる。

今後の研究の推進方策

当初計画していた広汎なフィールドワークを引き続きおこなうとともに、調査地を2箇所程度に絞り込んだインテンシブな民俗調査を同時並行しておこなう。また、水田魚道や冬水たんぼのほかにも、コイ農法や棚田オーナー制による米作り、稲作体験による都市-農村交流、といった水田をめぐる民俗技術の文化資源化について、インテンシブな民俗調査をおこなう。
調査内容としては、水田をめぐる民俗技術だけでなく、それを取り巻く社会、経済、信仰、儀礼といった民俗の諸相についても調査を進め、民俗調査報告書の作成を目指す。また、文字による記録にとどまらず、実見できるものについては、可能な限りカメラ・ビデオ等により映像記録化をはかる。
さらに、前年度から引き続き、文献資料の集成を進める。官公庁等の行政機関をまわり、水田魚道、冬水たんぼ、コイ農法、棚田オーナー制、稲作体験による都市-農村交流、グリーンツーリズムにかかわる行政資料を収集する。行政資料を用いることで、民俗技術に関する文化資源化の全国的な動向を把握し、行政の関与とその役割についても検討を加える。

次年度の研究費の使用計画

当初計画していたが、東日本大震災のために実施できなかった東北地方を中心とした広汎なフィールドワークをおこなう。また、調査地を2箇所程度に絞り込んだインテンシブな民俗調査をおこなう。
そのための旅費とこれまで収集した調査データの整理に、23年度に執行できなかった分の経費を充てることとする。

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公開日: 2014-07-24  

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