研究課題
鳥海山麓周辺では、近世期以降人為的に作られた国境を巡って、騒動を起こし、未だにかつての争いの火種を残すなど、地域間の反目が耐えなかった。しかし国による史跡指定等の動きを通して、地域住民が秋田県・山形県という県境を越えてまとまりを見せ始めた。本研究は、こうしたプロセスを通して、「地域住民の主体形成」や過疎地化の中で「新たなアイデンティティ獲得」を目指す営みを分析し、地域研究に多角的な視野を提供することを目的として始まった。 こうした問題意識から地域間の争いを詳細に分析し、それを土台として、ネットワーク作りの資料にする予定である。 当該年度はこれまでほとんど知られていなかった地域の負の遺産に関する資料を収集した。それは近代初期に鳥海山麓において、自分たちの地域の神社のみが国弊中社にならなかった、村社にならなかったといった事柄が、特定地域の人々のアイデンティティ獲得の妨げになっていたことが見えてきたからである。 そこで今回は鳥海山北嶺の地域の家々の古文書を収集した。この1年間で由利本荘市内の旧矢島町、由利町、鳥海町の旧修験家の資料をコピーし、解析を進めている。 これらは今回のプロジェクトの土台となる資料であり、地域のアイデンティティのよりどころとなる資料だからである。幸い地域の教育委員会、資料館などから全面的な協力を得て、資料収集は順調に進んでいる。また地域の方々からの聞き書きも始まった。特に今回の中心テーマでもある由利本荘市森子大物忌神社の関係資料を入手し、分析を初めている。
2: おおむね順調に進展している
鳥海山全域における人為的に区切られた境界は、歴史的には土地を巡る争いや裁判の火種にもなってきた。しかし一方で人々の交流を促し、文化や宗教を通した大きなネットワークに支えられ、地域を越えた大きな文化圏の形成も可能になると予測した。 本研究では平成18年から始まった世界遺産登録を目指した営みや、史跡指定による国家からの働きかけを土台にして、地域住民が県境を越えてまとまりを見せ始めたプロセスを通して、「地域住民の主体形成」や過疎地化の中で「新たなアイデンティティ獲得」を目指す営みを分析し、地域研究に多角的な視野を提供することを目的とした。 この3月に研究代表者も参加した史跡指定の管理委員会が策定した管理計画書の作成がほぼ終わった。現在は地域の個別事例及び資料を収集しており、初年度としては順調な成果を上げていると考える。
次年度も前年度に引き続き、現地での資料収集と現地での聞き書きが中心となる予定である。それ故、現地までの研究代表者及び研究協力者の旅費、現地で収集した資料のコピー等にかかる経費が中心となる。コピーをするための労力と時間が尽大なので、前年度と同様、現地で人材を雇用し、この作業に当たってもらう予定である。 また今年はこれまでに集めた資料を分析し、この研究のテーマに即した学会での発表を予定している。
国内旅費として、調査地への旅費及び学会出張費として300,000円。資料の整理及びコピーのための日当として100,000円。調査協力者の人件費として160,000円。その他コピー料金、PC関連消耗品費として40,000円。以上の合計が600,000円である。前年度からの繰越金額が37,165円で、これらを合計すると次年度の研究費の使用計画に関わる金額は637,165円となる。
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雄波郷
巻: 6巻 ページ: 1-19