研究課題/領域番号 |
23521002
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
川田 牧人 中京大学, 現代社会学部, 教授 (30260110)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | フィリピン / 民衆キリスト教 / 消費 / 聖具 / 文化人類学 |
研究概要 |
本研究の目的は、民衆キリスト教世界にみられる「聖具」が宗教的観念を可視化させる作用をとらえ、教義・教理が消費や流通の側面から理解・受容される様態を考究することである。この目的に到達するため、研究第1年度となる平成23年度には、まず基本的文献資料の収集をおこない、近年さかんになってきた宗教とマテリアリティに関する議論を中心に文献調査をおこなった。これは、物質性に関する近年の研究成果を、宗教研究の領域においてさらに深化させる点において意義深いものである。いっぽう現地フィールドワークにあっては、調査項目(1)モノとしての聖具に関する調査と、(2)都市祭礼におけるパフォーマンスと形象化に関する調査に着手した。(1)では、セブ大司教区カテドラル周辺の聖像販売の実態調査に着手し、教会直営のオフィシャル・ショップ、その周辺に販売ブースをもつ固定店舗、可動式荷台(カート)などを用いて路上で販売する聖像売りの三種に分けられること、それら三種はそれぞれ独自の流通経路や価格設定、顧客ネットワークなどをもつこと、それぞれの販売形態に対応した労働組合を形成し、たがいの利害の調整を図っていること、路上の聖像売りに関しては行政による取り締まりなどの問題があることなどを見出した。聖像販売の実態調査は、「聖具」流通の主要プラットフォームとしての重要性をおびている。(2)については、1月のシヌログ祭礼に参加し、路上に聖像をしつらえたデコレーションや、路上ダンスチームのコスチュームや演目を通したビジュアル化作用について、画像データの収集を開始した。この調査項目は、宗教的イメージが民衆に受容されやすいかたちに形象化される側面をとらえる上で重要な柱となるが、とくに画像データの収集という点で限定的側面もあったため、次年度以降には祭礼コミッティーへのアクセスなど、方法論的深化を考案したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は大きく三つの柱より成り立ち、その(1)ならびに(2)の調査研究に着手した点は上述したとおりである。このうち(1)「モノとしての聖具の流通経路」については、販売の場である聖堂周辺の調査に関し、初年度には計画通りに売店経営者・露天商などに関する調査が実施でき資料収集も順調である。第二年度には、聖具の購入者ならびに生産者へと流通経路の両端へと視点を拡げていく予定であるが、とりわけ聖具の生産地についての予備的資料が得られるなど,実施計画が前倒しされている側面もある。そのいっぽうで、(2)「都市祭礼におけるビジュアル効果をともなったパフォーマンスと形象化」については、調査対象により焦点化させるような方法の再検討の必要性を認識している。1月のシヌログ祭礼は、セブ市内に数十万人が集まる巨大な都市祭礼であり、そこに出現する聖像、聖画、聖人を模したコスチュームやパフォーマンスなどの「聖具」は膨大な数にのぼる。このような調査対象に対して、単独での調査によって画像資料を収集する方法はおのずと限界があった。今後の調査にあっては、フォトコンテストへの参加などによってさらにコミットしうる参与観察の方法を考案、また対象への十全なアプローチを可能にするような方法の考案という課題が、初年度の調査によって確認できた。なお調査課題(3)「宗教知識のテキスト化」は、当初の予定通り、第二年度から着手する柱として設定している。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね当初の予定通り推進する。すなわち(1)「モノとしての聖具の流通経路」調査は初年度の成果を生かしながら継続させ、聖具の生産地・生産者に関する調査、購入者に関する調査を加えて拡充させていく。(2)「ビジュアル効果をともなう都市祭礼のパフォーマンスと形象化」調査にあっては、上記のように調査方法を考案し直して、ふたたび1月のシヌログ祭礼を対象とする。また新たに、(3)「宗教知識のテキスト化」に関する調査研究をスタートさせ、セブ大司教区内の各教区で販売される守護聖人の由来譚や奇蹟譚などの小冊子に関する調査を開始する予定である。以上のように、当初の予定を大きく変更するようなことなく実施が可能であるので、現段階では交付申請書に記載した調査計画に沿って調査研究を継続したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
第二年度は、年間2回のフィールドワークを予定している。まず8月に3週間程度の滞在調査をおこない、セブ市広域都市圏における聖具の流通実態を中心に調査する。とりわけ、初年度の調査で明らかになった聖具の生産地であるタリサイ市にまで視野を広げ、聖具の流通圏を捉えることをめざす。また1月にはシヌログ祭礼の時期(第三週日曜日)前後にやはり3週間程度の滞在調査を予定している。この時期の調査内容は上記(2)の項目を中心として、(3)のテキスト化される宗教知識などについても資料収集をおこないたい。なお、「収支状況報告書」の「次年度使用額」に若干の残額が生じているが、これは初年度購入の機器備品費が見積時点より安価にて購入できたことなどの理由によるものであり、第二年度の画像データ化などに効果的な機器を補足するなどして、有効に使用したい。
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