本研究の目的は、民衆キリスト教世界にみられる「聖具」が宗教的観念を可視化させる作用をとらえ、教義・教理が消費や流通の側面から理解・受容される様態を考究することである。この目的に到達するため、(1)モノとしての聖具に関する調査、(2)都市祭礼におけるパフォーマンスと形象化に関する調査、(3)宗教知識のテキスト化に関する調査、の三つを設定した。(1)(2)に関して、日本文化人類学会第47回研究大会において「シンセイなる擬鋳物」と題する学会発表をおこない、生産過程における参入障壁の低さと広範な技術移転から真正品だけでなく量産品・複製品が価値を持つ側面、流通過程においては多様な販売ルートと顧客のニーズへの対応がなされている点、消費過程においては自分のテイストにあったカスタマイズに価値をおいた聖像の崇拝実態がみられる点などを明らかにし、聖像との「個人的で永続的な関係を築くための期待」に支えられた実践こそが、聖具消費の中心にあることを指摘した。また(3)の調査研究にあっては、この個人的カスタマイズを支える宗教知識が醸成される媒体として聖具にまつわる出来事譚を収集するとともに、教会や宗教団体が販売する小冊子等を比較した。それらは奇蹟譚の基本形を示し、ある意味で「公定奇蹟譚」のような役割を果たすと同時に、それとの距離関係で個々の経験が具体化され受容される素地ともなることが明らかになった。なお(2)においては、2013年秋に発生した地震ならびに台風の被害により、2014年1月に予定していたセブ市での祭礼調査を切り替え、メキシコ市におけるグアダルーペの聖母信仰の比較調査を実施した。教会堂前の街区デザイン、聖具販売の実態など、セブ市の聖具消費との共通点が多く発見された。
|