研究課題/領域番号 |
23521007
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平野 美佐(野元美佐) 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (40402383)
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キーワード | 模合 / 沖縄 / 頼母子講 / 貨幣 / 都市コミュニティ / 大正区 |
研究概要 |
平成23年度に引き続き、文献調査と沖縄での現地調査を中心に進めてきた。さらに本年度は、大阪市大正区での模合を中心にした現地調査を精力的に行った。文献調査は、沖縄県那覇市の県立図書館、沖縄県宮古島市の市立図書館、所属大学(京都大学)図書館などで適宜行い、主に過去の模合や沖縄社会全般、大阪大正区に関する書籍を読み込んだ。 現地調査では、那覇市周辺の模合に継続して出席し、模合メンバーの個々人の内面に焦点をあて、模合や貨幣についての聞き取りを進めた。また、本研究のテーマでもある模合集団によってつくられるネットワークやコミュニティについて明らかにするため、模合メンバーのネットワーク分析に着手した。模合集団が行う各種のイベントなどにも参加し、模合集団のもつ機能の広がりを理解することができた。また、那覇の宮古島出身者の模合が縁で、沖縄でも最も模合が盛んといわれる宮古島での現地調査も開始した。かつての模合のあり様を残し、かつ多様に展開している宮古島の模合に参加することで研究の視野が広がり、模合の神髄といえるような部分の理解を深めることができた。 大阪市大正区では、沖縄系コミュニティのイベント各種に参加し、人びとがどのように大阪において沖縄の伝統を守り、その活動を広めようとしているのかを見ることができた。また、大正区では「頼母子」とよばれている模合の活動に、自らもメンバーとして参加しながら、沖縄の模合との相違を発見してきた。大阪人を巻き込んで行われる大正区の模合がいくつもあることもわかり、大阪ならではの展開がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度で得た那覇での調査データをふまえながら、大阪市大正区と宮古島市という2か所の模合を調査することができ、模合というものが、さらには貨幣というものがいかに人と人との絆を結ぶのかということについて、深く考察することができた。今後、当初の計画よりさらに大きな枠組みで模合というものを考えることの手がかりを得たと実感している。 2年目ということもあり、那覇で調査をさせていただいた方々との信頼関係も深まり、より深いインタビューが可能になった。那覇では、親睦を目的とした模合が盛んであるが、その親睦模合の「発明」こそが、沖縄で模合が盛んな理由の一つであると考えており、今後の調査で実証していきたい。また、宮古島では模合社会といわれるほど人びとが頻繁に模合を行い、そのお金で子供を大学に行かせるなど、離島ならではの生活の困難を模合で乗り切っていることがわかった。大阪では、大阪人を交えての模合がかなりあり、独自の模合の展開が見て取れた。 このように、模合という日本全体ではあまり知られていない活動が、沖縄や大正区では人びとの生活に深く根付き、役立っていることを実証的に明らかにできるデータが揃いつつある。 このように、本研究は計画にそって順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られたデータをもとに、大阪大正区での模合についての調査をさらに進める。具体的には、聞き取り調査による大正区の模合史の再構成、大正区沖縄コミュニティの歴史と模合との関わり、また参与観察による現在の模合の実態把握とメンバーの模合利用の実態と模合ヒストリー記録などである。これらの調査により、大正区の沖縄系住民の歴史と、そこで模合がどのように役立てられてきたかを明らかにできる。また、大正区の沖縄出身者とそれ以外の人々を含んだ都市コミュニティのなかで、模合がどのように役立っているのかについても明らかにできると考える。 また、那覇市の模合調査と宮古島市の模合調査も継続する。模合の理解は、コミュニティのあり方、なかでも人間関係と大きく関わるため、那覇市と宮古市の都市社会のあり方を理解すべく、人びとの都市生活全般に関する調査も行う予定である。具体的には、人間関係のネットワーク調査、祝いごとなど贈与交換の頻度と金額などから、模合とのつながりを見つけていきたい。 このように、大阪、那覇、宮古の3つの社会の比較を通して、模合とコミュニティとの関わりを総合的に明らかにする予定である。 また本年は最終年度でもあるので、これまでの調査成果をまとめ、学会発表や学術論文として世に問うていく。アカデミックな世界にだけ成果を発信するのではなく、沖縄や大正区で調査に協力していただいた方々へも、その成果を発表し、意見交換ができればと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度も、沖縄那覇市と宮古島市で引き続き調査を行うため、旅費が最も大きい割合を占める予定である(大阪大正区での現地調査は、近距離かつ日帰りのため費用はあまりかからない)。また、資料収集や学会参加のための旅費も必要となる見込みである。 旅費以外では、書籍の購入、資料複写費、写真の現像代、英文校閲の費用、学会参加費、記録媒体購入費などの支出が見込まれる。
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