研究課題/領域番号 |
23530003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
海老原 明夫 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (00114405)
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研究分担者 |
大西 楠・テア 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 研究拠点形成特任研究員 (70451763)
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キーワード | 選挙権の平等 / 連邦選挙法 / 連邦憲法裁判所 / 超過議席 / 逆行的得票効果 |
研究概要 |
ドイツ連邦議会は2011年11月に、連邦憲法裁判所が2008年7月の判決で違憲とされていた連邦選挙法の改正を行った。改正の骨子は、逆行的得票効果発生の最大の原因である全国配分と州配分の二重の票分配手続を廃止し、州候補者名簿への直接分配の後に端数調整を行うようにしたことであった。申請者は当初の計画にしたがって、2008年違憲判決の分析と改正法の検討とを進めてきた。 ところが連邦憲法裁判所は2012年7月25日、結局一度も使われなかった2011年改正法について違憲の判断を下した。これによって連邦選挙法改正は振り出しに戻されることになり、事態の進展は今後の立法過程を見守るほかないことになった。のみならず憲法裁判所の2012年判決は連邦議会選挙制度のあり方について抜本的かつ詳細な注文を課し、選挙制度の根本的な変更を立法者に迫っている。 かような事態に直面して本研究としては、実際的重要性をもはや失った2011年改正法についての検討を研究の対象から外し、代わって2012年判決についての本格的分析を中心的課題とすることにした。2012年判決については、次の諸点が研究課題となる。まず同判決と2008年判決をはじめとする従来の憲法裁判所の判例との連続性・非連続性が明らかにされなければならない。次に2012年判決が連邦議会選挙制度の将来についていかなる方向性を示しているのかが分析されなければならない。そして最後に今後の立法作業の進展が注意深く見守られなければならない。ただし最後の点については本研究の期間内に明確な見通しが立つ保障は必ずしもない。 本年度には2012年判決の過去の判例との比較検討を主に進めてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究の目的」として掲げていたのは、第一に連邦憲法裁判所の判例の分析から選挙権の平等についての理論枠組みを抽出すること、第二にそれを前提にドイツの選挙法改正を跡付けて評価すること、第三にそこから我が国における選挙権の平等に関する議論への示唆を得ることであった。このうち第一については、これまでの分析作業に2012年判決を加えてほぼ所期の目標を達成している。しかしながら第二については、2011年改正法が違憲とされたことによって、研究の対象それ自体が振り出しに戻ってしまい、改正作業を再びゼロから見守ることになった。その結果第三についても、法律改正そのものから我が国の議論についての示唆を得ることは現状ではできなくなったが、かわって2012年判決それ自体が有益な考察対象を提供している。 当初の予定としては、研究の成果を2011年法律改正以前の判例分析に関する論稿と、2011年改正法に関する検討の論稿との二段階で公表するつもりであったが、上記のような事情の変更に伴い、2011年改正法に関する詳細な検討は主要な考察の対象から外し、判例の分析を、とりあえず2008年判決までの展開と、2012年判決およびそれに対する学界等の反応の分析の二段階に分けて公表する計画に修正することにした。そのうち前者についてはこれまでの研究から近々論稿を公表できるところまでたどり着いたが、後者についてはいまだ2012年判決に対する批評等も出揃っておらず、なお資料収集中である。 このように2012年違憲判決という予測外の事態の出来によって、当初の研究目的に形式的に照らしてみれば、目的達成からはほど遠い研究の現状のように見えるが、最終目的の日本法への示唆の獲得にかんがみれば、考察の材料はかえって豊かになっており、達成度としてはほぼ満足のできる程度と自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進としては、第一に2008年判決までの展開を跡付ける論稿の取りまとめ・執筆に全力を注ぐ。これについては材料はすでに集め終わっており、研究費の使用はもはや必要としない。 それに対して、今後の研究費は2012年判決に対す学界等の反応を調査・収集し、さらに今後の法律改正の動向を探るために使用する。本研究は残念ながら平成25年度をもって終了し、使用できる残された研究費も多くはないが、その範囲で出来るだけ能率的かつ生産的な資料収集を心掛けたい。 ドイツ連邦選挙法の改正それ自体は平成25年度中にはなされない可能性も高いが、本研究としては、2012年判決とそれに対する学界等の反応の分析を中心に据えて、今後のドイツ連邦選挙法の在り方についての見通しを獲得して、日本法における選挙権の平等に関する示唆を得るように心がけたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、2012年判決に対する学界等の反応を調査・収集するため、および2012年判決によってふたたび不可避となったドイツ連邦選挙法改正の動向を調査するために使用する。 2012年判決に対する批評等はいまだ出揃っておらず、判例批評や論文等はこれから徐々に雑誌等に公表されていくと思われる。法律改正の動向もいまだ予測を許すまでに固まってはおらず、しばらくはオープンな議論が行われることになろう。 こうした段階においては、ドイツに赴いてインタビュー等で調査することも一つの選択肢であるが、ドイツにおいてもおそらく議論はいまだ熟していないこと、および残された研究費の額からして、それは必ずしも実際的ではない。したがって、次年度の研究費は、文献資料を中心にして、効率的かつ経済的に有益な資料を渉猟・収集することに充てる予定である。
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