研究課題/領域番号 |
23530010
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
西村 貴裕 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (70367861)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 自然保護 / 国立公園 / 景観計画 / ナチズム |
研究概要 |
平成23年度は当初の研究計画を若干変更し、日本での戦前・戦中の自然保護をめぐる議論を分析した。具体的には、1929年~1944年に発行された国立公園協会の機関誌『国立公園』(1943年からは『国土と健民』と改題)を手がかりに、当時、国立公園の意義がどのように論じられたのかを分析し、これとドイツでの自然保護をめぐる言説とを比較する研究を行った。 ドイツを中心とした研究プロジェクトにおいて上記のような(当初の研究実施計画からは逸れる)対象を分析したのは、以下の事情による。ドイツにおける自然保護の意義付けを歴史的に分析する際、常に日本のそれとの対比で考察する必要がある。しかし、対応する研究が日本(法制)史の分野で存在しなかった。そのため、さらなる研究の前提として、自らこれを行ったものである。 上記の分析はすでに終了し、成果は勤務校の紀要で公表された。その結果、ドイツにおける(特に戦間期の)議論と、ほぼ平行した議論が日本でも展開されていたことが明らかとなった。すなわち、自然保護と「愛国心」の涵養を結びつけ、また国民の体力増強の点から自然保護の必要性を説くような議論が、両国において(時代は多少ずれるが)展開されていた。また、ナチス政権が計画した東部占領地(ポーランド)の景観改変計画のごときものは、日本では考えられていなかったことも示された。 以上のように、平成23年度の研究によって、自然保護をめぐる思想に関して日本とドイツとの共通性と異質性の一端を明らかにすることができた。これは、日独における自然保護の展開を比較史的に考察する上で重要な成果であったし、また、ドイツの自然保護制度・思想史を跡づけようとする本研究の意義を、より一層正当化するのに資する成果であったと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、昨年度は、本研究の意義に深く関わる対象を分析したことにより、当初の研究計画を若干変更することとなった。すなわち、初年度においてはナチズム期の代表的自然保護活動家の何人かに焦点を当て、その思想の変遷を分析するとともに、ヒムラーの「東部総合計画」に付随した景観計画に対するこれらの者の見解にも焦点を当てる計画であったが、計画を変更し、これらの研究の前提として、日本の戦中・戦時に自然保護がどのように意義づけられたかを検討し、これをドイツの動向と比較する研究を行った。 以上は研究計画の変更ではあったが、本研究の目的は、自然保護の意義がどのように根拠づけられたのかを、ドイツ自然保護史を対象として分析するものである。この意味で、比較の対象として日本自然保護史における同様の議論を分析することは、「研究の目的」から逸れることではなく、かえってその意義づけに資するものであったと考える。 以上から、「研究の目的」は、初年度には概ね達成できたと考えてよいと思っている。もちろん、当初の研究計画の方向で研究を進展させていくことも重要であり、日本の国立公園をめぐる議論についての論文を執筆した後は、再びもともとの研究計画に沿う形で研究を進めている(次の「今後の研究推進方策」の項目参照)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の推進は、当初の研究計画に従って進められる。初年度に日本とドイツとの比較に関する研究を行ったため、当初の研究計画自体には遅れが生じていることとなる。そのため、できるだけ早急に計画を進めていくつもりである。 当初の研究計画自体には、変更が必要なほどの問題点は見つかっていない。ただ研究計画のIとして示した「ナチズム期の代表的自然保護活動家の、自然保護についての思想形成・変遷」の部分は、当座帝国レベルの自然保護法(あるいは帝国自然保護法)に対する考え方・評価を軸にして進めることとなりそうである。その理由は、まず第一に、日本、ドイツ、そして英語圏の研究で「帝国自然保護法」が重要な位置を占めているにもかかわらず、日本ではその内容すら、正確には紹介されていないためである。第二に、対象をこのように限定することによって、分析が容易になるためである。それ以外の研究計画については、当初の計画通り推進する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度予算に、資料収集時に携行するノートパソコンの購入費用を計上したが、これは勤務校から与えられる研究費で購入することができたため、127,999円執行残となった。本年度以降、研究計画遂行に必要なドイツ語書籍の購入に充てる予定である。 当初の研究計画通り、夏季にドイツへの資料収集を計画している。研究費の大半は、このために用いる予定である。その後、残額を、研究に必要な和書、文献複写、図書現物貸借、国内資料収集旅行等にあてたい。
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