研究課題/領域番号 |
23530015
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
瀧川 裕英 大阪市立大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (50251434)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 政治的責務 / 遵法義務 / フェアプレイ / D・ミラー / 人権 / R・ドゥオーキン |
研究概要 |
政治的責務の正当化論を検討し、政治的責務と遵法義務の異同を考察することで、法と国家の基礎理論を構築するのが、本研究の目的である。この目的を達成するため、平成23年度には、(1)フェアプレイ論の検討、(2)D・ミラーの法権利論の検討、(3)R・ドゥオーキンの遵法義務論の検討を行った。(1) 国家が供給する利益に着目して政治的責務を正当化する諸理論の中で、現在最も有力に主張されているのがフェアプレイ論である。このフェアプレイ論が依拠するフェアプレイの原則の妥当性を批判的に考察した。法哲学社会哲学国際学会連合(IVR)世界大会(2011.8 フランクフルト)にて、Political Obligationと題するワークショップを企画・開催し、その成果の一部を報告し、諸外国の研究者と討論を行った。(2) 本研究は、法的状態へと移行する義務であるという理論仮説を持つ。オックスフォード大学の政治哲学者D・ミラーは、神戸レクチャー(2011.7 同志社大学)において、刑罰が正当化可能なのは犯罪者が人権を喪失したからだとする講演を行った。この講演に対する指定討論者として、犯罪者が人権を喪失するというのはいわば自然状態への回帰であるが、刑罰はあくまで法的状態において行われるものであり、犯罪者は人権を喪失しないという報告を行い、討論を行った。(3) 正義が妥当するのは国境の内部においてのみであるとする理論が、R・ドゥオーキンはじめ有力に主張されている。そこで、ドゥオーキンの政治的責務論を検討し、国境を強調する背景にあるのは強制力に対する着目であること、だが強制力を再解釈することでより普遍的な責務を正当化できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画において、2つの研究作業を行い、2つの成果報告を行うことを予定していた。 研究作業予定として、第一は、国家状態と対比される自然状態とは何か、国家状態は自然状態との対比でそこに住まう人々に対していかなる利益を与えているのかを、主としてゲーム理論を用いて考察することである。これについては、刊行計画中の法哲学教科書の一部となる原稿において詳細に検討を行った。第二は、国家が供給する利益によって政治的責務を正当化する諸理論(利益論)を総合的に検討することである。これについては、その中でも特に有力に主張されているフェアプレイ論について、後述する国際学会において、フェアプレイ論が依拠するフェアプレイの原則が妥当しないという報告を行った。 成果報告予定として、第一は、法哲学社会哲学国際学会連合(IVR)世界大会における研究報告である。これについては、ドイツ・フランクフルトで行われた世界大会において、「政治的責務」というスペシャル・ワークショップを自ら企画・開催し、先述したフェアプレイ論の報告を行った。第二は、D・ミラー(オックスフォード大学)を迎えて行われる神戸レクチャー(同志社大学)における指定コメントである。これについては、人権の喪失を主張するミラーに対して、人権の喪失を否定するコメントを行った。 以上のように、研究計画のおける予定を順調に達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度は研究計画に従って、順調に研究を推進することが可能であった。そのため、今後についても、研究計画に従って研究を推進していくことにする。具体的には以下の通りである。 第一に、平成23年度に引き続き、利益論の総合的検討を行う。フェアプレイ論のみならず、古典的な理論である功利主義、近時有力に主張されている慈善義務論の分析に注力し、それぞれの理論の意義と問題点を明確にしていく。 第二に、政治的責務と遵法義務の相関関係を分析的に検討していく。そのために、I・カントの法的状態論の研究に注力していく。『人倫の形而上学』の「法論」においてカントは、自然状態と法的状態を対比し、法的状態とは配分的正義の状態であるとする。また、国家は一種の法的状態であるが、それは暫定的な法的状態に過ぎないという。こうしたカントの法的状態論を手掛かりとしながら、「普遍的な遵法義務を適切に果たす手段として、個別的な政治的責務は正当化される」という理論仮説を練り上げ、その妥当性を検討していく。 研究方法は文献研究が中心になるが、平成24年11月に一橋大学で開催される日本法哲学会学術大会では、統一テーマ「グローバライゼーションと国家・法」(仮)の下、企画委員として大会報告を行うことが予定されている。その時点までに得られた本研究の成果を報告し、そこでの批判的討議を通じて、理論の更なる彫琢に努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度以降の研究費は、当初の研究計画に従って使用していく。主たる使途としては、関連文献の収集を予定している。特に、平成23年度は執行可能金額の確定が遅れたため文献収集も遅滞したので、その穴を埋めるべく精力的に文献収集を行っていく。
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