研究課題/領域番号 |
23530015
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
瀧川 裕英 立教大学, 法学部, 教授 (50251434)
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キーワード | 政治的責務 / 遵法義務 / 法的状態 / 自然状態 / グローバル・ジャスティス / カント |
研究概要 |
政治的責務の正当化論を検討し、政治的責務と遵法義務の異同を考察することで、法と国家の基礎理論を構築するのが、本研究の目的である。この目的を達成するため、平成24年度には、1 利益論の総合的検討と、2 政治的責務と遵法義務の相関関係の分析を行った。 1 国家が供給する利益に着目して政治的責務を正当化する利益論は、自己利益論・感謝論・慈善義務論・功利主義(帰結主義)に区分できること、それぞれの議論の論理構造を明確にすることにより、これらの議論は2つのテーゼ、すなわち個人責務テーゼ(個人による政治的責務の遂行が国家の存在のためには必要である)と自然状態テーゼ(国家の存在は、国家の不在=自然状態よりも利益をもたらす)を前提としていること、したがって、利益論の妥当性は、この2つのテーゼの是非にかかっていることを示した。その成果の一部を、平成25年2月の研究会(東京大学)において報告した。 2 <普遍的な遵法義務を適切に果たす手段として、個別的な政治的責務は正当化される>という理論仮説を検討するために、いわゆるグローバル・ジャスティス論の論理構造を分析した。地球規模の正義原理の妥当性を否定する有力説を批判的に検討することを通じて、地球を共有する者たちは、地球規模での権利保障、すなわち法的状態を実現する義務を負うのであり、この地球規模での権利保障を確立するために、諸国家による制度的分業が要請されるという洞察を得た。平成24年11月に一橋大学で開催された日本法哲学会学術大会では、統一テーマ「国境を超える義務」の下、その成果の一部を報告し、討論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画において、2つの研究作業を行い、成果報告を行うことを予定していた。 研究作業予定の第一は、利益論の総合的検討を行い、利益論の中で特に、フェアプレイ論・功利主義・慈善義務論の分析に注力し、それぞれの理論の意義と問題点を明確にしていくことである。これについては、各議論の論理構造を明確化することで、個人責務テーゼと自然状態テーゼを析出し、フェアプレイ論は利益論の一類型というよりは、個人責務テーゼの一形態であることを解明した。この研究の一部は、研究会において報告を行った。 第二は、政治的責務と遵法義務の相関関係を分析することである。これについては、地球規模での正義について、カントの議論を参照しながら道徳的コスモポリタニズムという補助線を引くことで、法的状態を実現する義務こそが根源的であること、法的状態を効果的に実現するための制度的分業として国家が正当化されうることを、日本法哲学会学術大会において報告した。 以上のように、研究計画における予定を順調に達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度、平成24年度は研究計画に従って、順調に研究を推進することが可能であった。そのため、平成25年度についても、研究計画に従って研究を推進していくことにする。主として、これまでの研究で得た知見をもとに、政治的責務と遵法義務の相関関係について更なる理論的深化を図りながら、本研究の成果全体をまとめ公表することに尽力する。 平成25年7月にブラジルで開催予定の第26回IVR(法哲学・社会哲学国際学会連合)世界大会では、「政治的責務と政治的正統性」をテーマとするスペシャル・ワークショップを企画開催し、その中で本研究の成果を報告する予定である。そこでの批判的討議を通じて、理論の更なる彫琢に努める。 この作業を通じて、研究成果を英語で論文化すると共に、本研究の成果を日本語でも論文化して、その妥当性を世に問うこととしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、当初の研究計画に従って使用していく。主たる使途としては、関連文献の収集、IVR世界大会におけるスペシャル・ワークショップの開催と研究報告、および成果発表の準備作業を予定している。 なお、急激に進む円安のため、海外渡航費等が高騰し、平成25年度の研究遂行に支障が出るおそれがあったため、当初予定よりも多くの研究費を最終年度に残している。
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