本研究の目的は、政治的責務の正当化論を検討し、政治的責務と遵法義務の異同を考察することで、法と国家の基礎理論を構築することにある。この目的を達成するため、平成25年度は、過去2年間の研究を踏まえつつ、更なる理論的深化を図った。具体的には、第一に、<国家状態(国家が存在する状態)は自然状態(国家が存在しない状態)よりも人々に利益をもたらす>という自然状態テーゼを検討し、自然状態テーゼは一見すると成立しないように見えるが、人間の存在論的事実を考慮すると自然状態テーゼが成立することを示し、その一部を国際学会において報告した。第二に、義務の射程を国家に限定する政治的責務の正当化可能性を検討するために、義務の射程を国家を越えて拡張するいわゆるグローバル・ジャスティス論を検討し、正義に適った状態を構築する義務は、理論上国家を越えるだけではなく地球を越えて宇宙規模に及ぶものであることを示し、その一部を学術論文において発表した。 以上の2点は、実のところ、3年間にわたる研究を開始する際には予期しなかった理論的成果である。つまり、<普遍的な遵法義務を適切に果たす手段として、個別的な政治的責務は正当化される>という本研究の理論仮説を、第一の政治的責務の存在論的転回と第二の正義の宇宙主義的転回は共に大きく拡張するものであり、国内的のみならず国際的に見ても、従来の議論地平を打ち破る可能性を秘めた独自の成果であると位置付けることが可能である。
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