研究課題/領域番号 |
23530016
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
守矢 健一 大阪市立大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (00295677)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ドイツ / 法 / 言語 / 社会構造 / 歴史 / 文献学 / 哲学 |
研究概要 |
研究実績は、失敗と成功との奇妙な混淆となってしまった。失敗の記録から報告する。研究計画の第一に掲げた、サヴィニーの手稿 Adversaria Iの編集作業は困難を極めている。手稿に携わる者は、公刊業績を熟知していなければならない。何度も、サヴィニーの、公刊されたローマ法史研究を読み直す必要に迫られた。編集は遅々として進まない。ディルクセン研究については、必ずしも失敗ではない。法制史の世界的に代表的な雑誌『サヴィニー雑誌』にドイツ語論文を公刊することができた。そのほか、続けてこの忘れられたサヴィニー批判者のテクストを丹念に読み、ノートを作成している。ディルクセンが強く意識するフランス人文主義法学者Brissonius のDe Formulis et solennibus を購入し得たのは有難かった。前述の失敗は、但し、思わぬ成果を齎した。サヴィニー没後150年に当たる2011年10月24・25日に、フランクフルト大学に於て、マックス=プランク=ヨーロッパ法史研究所主催のシンポジウム《国際的なサヴィニー?》において、日本におけるサヴィニー研究について明治期から1945年に至るまでを分析し、自らのサヴィニー像の批判的相対化を試みる報告を行った。このシンポジウムの成果は論文集として公刊される予定で、わたくしの原稿は2012年1月末に、すでに編集部に引き渡してある。また、法と言語の関係を日本法との関係で考察する場合に鍵を握る人物だと感じていた、徹底的な《概念法学》批判者来栖三郎について、戦中の業績を立ち入って分析した。民法学者としての自意識に強烈に規定された来栖の思考に、サヴィニーとの並行性がかなり明瞭に見てとれることは思わぬ成果であった。大阪市大で2012年3月23~25日に開催された日独法学シンポジウムで日独双方の言語で報告した。これも公刊予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
評価には悩んだ。この期間、法と言語の関係について、ずっと考え続け、また書き続けてきたのは確かである。論文も執筆し、国際シンポジウムにおける報告も行った。重要な図書も購入できた。「遅れている」とは言いたくない。しかし、研究を真剣に行えば、蛇行せざるを得ないという凡庸な真実と向き合わねばならなかったのも事実である。「おおむね順調」という言葉に内心忸怩たるものを感ずるのである。Adversaria の編集作業は、困難を極めている。ただし、「研究の難しさ」といった修辞に甘んじたくはないのである。
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今後の研究の推進方策 |
Adversaria I の編集作業を、可能な限り進めたい。これとの関係で、サヴィニーの公刊された業績の精読も、続けねばならない。またDirksen の論文の学説史的理解も深めていきたい。そのために、サヴィニーやディルクセンの作品で引用されてある文献の理解にもつとめたい。2011年度の作業に於て、言語と法の問題を考える場合に、日本語と日本法学史の問題にあらためて直面することともなった。当り前ではある。来栖三郎を手掛かりとして、この側面の問題も避けることができなくなった。多正面作戦を強いられるが、問題の核心を見据えて、確実に歩を進めてゆきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
人文主義関係の書物、ローマ法史関係の書物の購入、ドイツ短期滞在の渡航および滞在費、国内出張旅費、資料整理のための備品などに、使いたい。
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