25年度には、11月に「刑事司法への市民参加―新たな経験、その成果と課題」と題する国際ワークショップを実施し、ロシア(セルゲイ・パーシン高等経済学院教授)、カザフスタン(グリナラ・スレイメーノヴァ弁護士)、韓国(申東雲ソウル大学校法学専門大学院教授)、日本(四宮啓國學院大学教授)の4ヵ国における刑事司法への市民参加の経験について議論を行なった。それに先立ち、9月にはワルシャワにおいて裁判官裁判、モスクワにおいて陪審裁判を傍聴した。モスクワでは、モスクワ国立法科大学などにおいてロシアにおける陪審制の研究状況についての調査も行なった。さらに、国際比較を念頭に置きつつ、裁判員制度について論ずる視点を提起した「裁判員制度の論じ方」と題する論文を執筆した。 23~25年度の研究期間全体をつうじて、第1に、ロシア(多数決制の陪審制)、韓国(勧告的効力に限定された変形された陪審制)、カザフスタン(陪審制寄りのフランス型参審制)、日本(参審制寄りのフランス型参審制)、ポーランド(典型的な参審制)という各国の制度の位置関係が明らかになり、各国の制度の詳細な対照表を作成することができた。ロシアにおける陪審制の裁判実務が、モデルの異なるカザフスタンに大きな影響を与えていることも明らかとなった。第2に、比較研究の中心であるロシアについては、陪審制が訴追側への偏りというロシアの刑事司法の抱える問題性を克服するという制度導入の目的に応える実績を一定程度挙げたがゆえに、そのことに対する反発や制度的負担の回避という観点からの巻き返しを受け、適用対象の縮小という事態に立ち至っている、という仮説を得た。なお、陪審制導入の立法過程(93年)については、史料の保存状況が良好ではないことが明らかになり、今後に課題を残した。
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