研究課題/領域番号 |
23530024
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
西村 重雄 福岡工業大学, 社会環境学部, 教授 (30005821)
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研究分担者 |
篠森 大輔 神奈川大学, 法学部, 准教授 (40363303)
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キーワード | 法定質権 / ローマ私法 / 国際情報交換 / ドイツ |
研究概要 |
賃貸人の、賃料債権の確保のための、持ち込み動産に対し質入れを約束する共和政期の慣行から法定質権が成立したのであり、ローマ帝政後期に言及されるその他の法定質ないし抵当権は、それ以前の実務慣行が想定されてしかるべきである。そのような観点から、ローマ支配下のエジプトにおいて作成されたパピルス文書は、質権発達史上好材料である。古典期ローマ法上は、自己所有の財産を質入れするにあたり、現在所有の物のみならず、将来取得されるものも含めることが広く認められており、また、現有のものについては、個別に質に取った場合は、直ちに、債務者はその処分の権限を制限されるのに対して、包括的に質入れした場合は、債権者による占有取得まで処分権を制限されず、奴隷の解放も全く有効である。従って、単に包括的に質に取るだけでなく、個別的に質に取る方がはるかに強い効力を有する。もっとも、これは、現に所有するものに限定され、将来のものは、特定的に質にとることはできないのは当然である。 ところが、パピルスの実務文書には、債務者が現在所有物及び将来取得物を個別的かつ包括的に質入れするとの条項が、4世紀末より6.7世紀にかけて広くみられるようになり、現在確認したものだけでもすでに48例にのぼり、しかもこれについて今まで全く研究者の言及がないことが判明した。 この意味不明の条項が実務上意味のある条項として使用された理由を検討したところ、通説とは異なり、ローマ後期の東部でも西部でも、質権が自力で執行されていたことといくつかの法史料から推測せざるを得ないとの結論にいたり、それを前提とするならば、少なくとも地方の法律専門家の少ない地方では、将来取得物もまた個別に質入れされたものとして、債権者がこの条項を基礎として、自力でその占有を優先的に確保することが可能であったのではないかとの仮説を得、これをSIHDA国際会議において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ローマ法の基本手法である釈義の方法を、本年度福岡で、内外の研究者30名の報告を3日間にわたって議論する国際コロキウムを準備、開催して、いっそう深めることにより、法文理解が一層深くなったこと、および、パピルス史料について、ドイツフライブルク大学法制史研究所所蔵の豊富な資料が利用できたこと、また、内外の研究者と意見交換の機会を積極的に求めたことがあげられる。
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今後の研究の推進方策 |
全財産に対する法定質権の成立にはそれに先立つ約定質権の実務慣行を想定すべきであり、また、同時に債務者の責任財産概念の形成につながると考えられる。したがって、債務者による恣意的な責任財産からの流出に対して取り戻しをはかるパウリアーナ訴権は、質入約束への違反として理解することが適切とおもわれ、このことを、引き続き、パピルス文書あるいは、勅法における潜在的需要の読み取りを続け、また、国際学会、国際シンポジウムにおける報告を重ねて、議論をより精密に展開させ、また、コロキウムの成果をドイツ語で発行する準備を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度に開催した国際コロキウムの準備のため費用が予定以上にかかった。25年度においては、ザルツブルク大学で開催されるSIHDA67回大会に参加し、また、フライブルク大学法制史研究所において、パピルス史料の研究に取り組み、また、内外の研究者と議論を深め、今までの成果を取りまとめるために使用する。
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