研究課題/領域番号 |
23530027
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
高橋 滋 一橋大学, 国際・公共政策大学院, 教授 (30188007)
|
キーワード | 公務員法 / 労働基本権 / イギリス法 / ドイツ法 / フランス法 |
研究概要 |
本研究の目的は、①これまでの申請者の公務員法制度のあり方に関する研究、及びドイツ・イギリス等の公務員法制度に関する研究を踏まえて、労働基本権付与を前提とした一般職非現業公務員の制度に関するあり方を研究すること、②公務員法改正法案について分析を加えるとともに、③制度が改正された場合における中央人事機関のあり方・労使交渉のあり方につき提言を行うことであった。 まず、①わが国の公務法制度改革の分析については、国家公務員法改正関連法案が、第177回国会に閣法第74号・同第75号・同第76号・同第77号として、地方公務員法改正関連案は、第181回国会に法第9号・同第10号として、国会に提出されたものの、平成24年末の衆議院の解散により、審議未了・廃案となり、政権交代により再提出の見込みはない。このような現状に照らし、法案についての理論的分析を行うことに研究目標を修正することにした。これに対応し、現在、両関連法案の分析、同法案を前提とした中央人事行政機関・労使交渉のあり方について分析した論文を、執筆中である。 つぎに、②諸外国の公務員の労働法制に関する調査分析の作業については、イギリスについて、イギリス行政法を専攻する研究協力者(久留米大学周セイ氏)とともに、平成25年1月に、公務員法制を研究するイギリス人研究者(西スコットランド大学・R. Pyper教授)、上級公務員給与審議会事務局(Senior Civil Service Body)、公務員労働組合(Public and Commercial Services Union)等を訪問した。現在、その成果を含めて、研究協力者と連名の共同論文を準備中である。また、ドイツ・フランスについても、一橋大学薄井一成氏(ドイツ)・山口大学服部麻理子氏(フランス)と、平成24年度から共同の分析作業を開始し、両氏との共同論文の執筆を準備している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①「本研究の概要」に述べたように、国家公務員法改正関連法案は、第177回通常国会に、「国家公務法等の一部を改正する法律案」、「国家公務員の労働関係に関する法律案」、「公務員庁設置法案」、「国家公務員法等の一部を改正する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」として、地方公務員法改正関連案は、第181回臨時国会に、「地方公務員法等の一部を改正する法律案」及び「地方公務員の労働関係に関する法律案」として国会に提出された。しかしながら、審議未了・廃案となり、政権交代により再提出の見込みはないことから、これらの法案についての理論的分析を行うことに目標を修正にした。両関連法案の内容、法案を前提とした中央人事行政機関のあり方・労使交渉について、日本で刊行された文献の収集・分析を行い、成果をまとめた論文を、執筆中である(平成25年度刊行予定)。 ②諸外国の公務員の労働法制に関する調査分析の作業については、行政法を専攻する中堅・若手の研究者との間の連携・協力関係を生かして、各国ごとに日本法との比較を進める作業を行ってきている。 まず、イギリスについては、久留米大学法学部専任講師周セイ氏(イギリス行政法専攻)とともに、イギリスの訪問調査を実施した。具体的には、公務員法制を研究する西スコットランド大学のR. Pyper教授、上級公務員給与審議会事務局のK. Mason氏、公務員労働組合の全国交渉担当のG. Lewta氏等を訪問し、調査を行った。かつ、周セイ氏との間において複数回の研究打合せを実施して、共同論文を準備中である。また、ドイツ・フランスについても、一橋大学大学院法学研究科准教授薄井一成氏(ドイツ行政法専攻)・山口大学経済学部専任講師・服部麻理子氏(フランス行政法専攻)と、平成24年度から共同の分析作業を開始した。現在、両氏と打合せをしつつ連名の論文の執筆を準備している。
|
今後の研究の推進方策 |
①民主党連立政権から自民党連立政権への政権交代の下で、当面、制度改革を目指した具体的な行政府・立法府の動きが予定されていない現状を踏まえ、民主党政権の下で提出された国家公務員法改正関連法案、地方公務員法改正関連法案を理論的に分析し、労働基本権の付与を前提としたあるべき公務員法制の在り方を提言する学術論文を執筆し、平成25年度中に公表する。 論文の具体的内容としては、①政治的中立が求められる上級公務員と一般公務員とを区別する制度とすること、②上級公務員については、現行の人事院に相当する機関が、民間の動向、一般公務員の給与水準、人材確保の視点、財政状況等を総合的に勘案し、勤務条件・給与水準について勧告する制度とすること、③一般公務員については、人事院に相当する機関が民間給与水準について調査・公表し(ただし、これまでの人事院勧告とは異なり、自律的交渉の余地を認める参考基準的性格のものとする)、これを下に、労使が中央交渉により給与水準を決定するシステムへと改革する。また、勤務条件については、人事院に相当する機関が基本的な制度に企画立案を担当し、その枠内において各省庁が労使交渉(懲戒は交渉事項外とする)を踏まえて機関の長が規則により具体的規律を定める、等の仕組みを提言する予定である。 ②イギリス、ドイツ、フランスの各国について、研究協力者と共同で、調査研究の成果を踏まえた比較法の論文を公表する。 これらの論文の内容につき、各国の最新状況を反映したものとするため、ドイツ・フランスについては、これまでの文献調査を踏まえ、公務労働関係担当中央行政機関、労働組合、研究者等についての訪問調査を平成25年度中に実施する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
①平成24年度については、年度計画を適切に遂行することに努めつつ、予算の効率的な執行に努力した結果、70,259円の執行残額が生じた。この執行残については、フランス・ドイツ等の調査旅費に充当する予定である。 ②ドイツ・フランスの公務員制度及びその運用状況について、訪問調査を実施する(場合によっては、中堅・若手研究者に調査を委託する)。ドイツについては、ベルリンを中心として、複数地を予定し、フランスについては、パリを中心として、同じく複数地を候補地とする。また、両国ともに、公務員法を専攻する研究者、中央人事行政機関、公務員労働組合等を訪問調査の対象として予定している。そのために、旅費(外国出張)の支出を予定している。 ③イギリス・ドイツ・フランスの公務員法制度に係る論文を執筆するため、中堅・若手研者との間において、それぞれ複数回の打合せを実施する。そのために、旅費(国内出張)の支出を予定している。 ④論文執筆のための書籍購入、PC等の必要な備品を購入する。そのために、備品費、消耗品費の支出を予定している。 ⑤大学院生に対し、資料整理等の研究補助事務を依頼する。そのために、人件費の支出を予定している。
|