研究課題/領域番号 |
23530029
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高橋 祐介 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (50304291)
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キーワード | 生活保障 / 生命保険 / 損害賠償 |
研究概要 |
本研究は、年金制度や社会保険制度、さらには国や地方公共団体自体を大きな意味での事業体とみて、その出資ないし拠出(税や社 会保険料など)と利益分配(公的給付)、さらには私的年金などの私的給付まで取り込んだ包括的課税モデルを探ることを目的とする 。 本年度は、疾病や人身被害を念頭に、社会保険制度及びそれを補完する私的保険などと税制のあり方について、事業体課税の視点を踏まえつつ検討を行い、問題点の指摘及び課税モデルの提示を行う。日本の税制は、特に人身被害についてかなり手厚い社会保障を構築した上で、私的保険の掛金控除・給付非課税といった、さらなる手厚い私的保険制度を構築しているものの、(1)社会保険が非課税であることとも相まって、社会保険の保障範囲から外れ、そのために別源泉所得からそれを補おうとすると、税負担が被保険者や遺族の損害回復を阻害する、(2)私的保険の掛金が世帯所得や貯蓄と連動し、かつ高額所得・貯蓄を有する者も私的保険非課税を利用することができる点で、逆の富の再分配、つまり富裕な者がますます富裕になり、貧しい者がますます貧しくなると効果(いわゆるマタイ効果)を有している。従来の検討からは当然視されてきた相続税の生命保険非課税枠、損害賠償・損害保険金非課税など、見直すべき諸点が多く存在する。後掲研究発表掲載の報告成果の他、「税は自ら助くる消費者(もの)を助く?」NBL984号90頁(2012)といった本研究周辺諸領域における成果も存在し、本研究遂行に役立つと共に、本研究の成果が生かされてもいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会保険と私的保険を併せて考察する、給付を受け取る者の課税関係のみならず、給付を受け取れずにその他の源泉から給付分の穴埋めをする者の課税関係を比較するといった研究の視点から、諸制度の連関や非課税といった所得課税の本質に触れる包括的な研究を行うことができた点で、進展がみられた。また、アメリカ法についても資料収集と検討を行い、特に損害賠償非課税範囲の制限(精神的損害賠償課税)といったところからも、新たな知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画に基づき、従来帰属所得や人的資本課税の問題として捉えられていた住宅及び教育に関するあるべき課税を、それらに対する給付の側面を踏まえた上で検討を行う。また、社会保障・税の一体改革の進展から、マイナンバー制度など、施策実施の具体面にも着目したい。ただし、対象がかなり広範なので、制度的に細かく問題点を指摘するというよりも、基本的な理論や考え方を検討することに主眼を置く。
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次年度の研究費の使用計画 |
社会保障・税の一体改革に伴う種々の議論が継続すると見込まれるが、最終年度ということもあり、なるべく早めに書籍購入や資料収集を行う予定である。また、継続して使用してきた電子機器が前年度末に破損したため、研究継続が困難な側面がある。次年度始めに若干の備品の補填を行う。
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