研究課題/領域番号 |
23530033
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
菅原 真 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 准教授 (30451503)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | フランス / 国際情報交流 / 憲法訴訟 / 憲法院 / 国務院 / NPO / 外国人の権利 / 移民政策 |
研究概要 |
現在、我が国では「多文化共生社会」の実現が重要課題の一つとして位置づけられている。<グローバル化>が進展する現在、移民の定住化を前提とした議論を行い、法整備を行うことは避けられない。しかし、「共に生きる社会」の構築は垣根なしに困難な課題であり、英米型コミュノタリズムに基づく多文化主義モデルと異なるフランス型社会統合モデルも、積極面のみならず、様々な課題を露呈させてきた。そこで、本研究は3年の研究期間を通じて、(1)この30年間のフランスの移民政策および法制度の推移、憲法院によるそれらに対する立憲的統制、憲法院・国務院の諸判決において明らかにさてきた外国人の諸権利の諸内容、それらに対する憲法学説の評価など、第5共和制憲法の下での外国人および移民の法/権利の状況を公法学的観点から明らかにすること、(2)さらに、1978年に外国人の権利に重要判決(GISTI判決)を国務院から引き出した移民の権利擁護団体・GISTIの活動に焦点を当て、このNPOがフランスの法世界に与えている現実の役割や影響を分析・考察していくことを課題としている。国務院の幹部で憲法院事務総長でもあったB・ジュヌヴォワ氏も、このNPOが数多くの訴訟を提起して判例形成に寄与してきたことを大いに評価し、さらにGISTIの企画への参加は弁護士の義務的研修プログラムとなるなど、法曹養成という観点からも注目される。 本研究の一年目となる本年度は、1980年1月10日のボネ法以降、2011年6月12日のベッソン法に至る30年間のフランスの移民法制の史的展開を、国立移民史博物館を見学して入手した資料のほか、法案審議や憲法院における違憲審査の内容を文献調査することによってまとめるとともに、現在の「選択的移民」をスローガンとする法制度の下、受入統合契約の実態や外国人医療労働者の実情について現地でインタビューするなどして調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、本研究代表者がこれまで学問的交流を重ねてきた憲法研究者・法律実務家の協力を得て、外国人/移民に関する最新のデータや受入統合契約のオリジナルの公文書を現地で入手したほか、国立移民史博物館の見学・資料収集、医療施設におけるインタビュー調査などを通して、外国人労働者の受け入れの史的展開や現状について調査することができた。さらに国内で文献調査によってこの30年間の移民法制の史的展開については研究することができた。 しかしながら、外国人の権利擁護のために活動するGISTIに関する研究をほとんど行うことができなかったことが問題点として挙げられる。GISTIは、フランスにおける移民の権利擁護のために、1972年に法律家・公法学者・社会学者などによって創設されたNPOであり、数多くの裁判を提訴して公法判例の形成に寄与したり、情報公開法に基づき多くの資料を公表したり、移民向けの法制度の紹介や分析をおこなったりしている。本研究の重要な目的の一つは、NPOが公共空間を支える「フランス・モデル」を提示することにあり、その意味でも、GISTIの研究を次年度は重視していく。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、研究計画に記したように、本年度の研究成果を踏まえた上で、フランスにおける外国人/移民の権利擁護のためのNPOの有力団体であるGISTIについて、その組織編制と活動内容全般を把握し、その諸特徴を明らかにすることが課題である。特に、GISTIの社会制度上の位置づけとの関係では、組織構成のほか、GISTIが活動を行う上での事業収入・補助金などの収支状況など、NPOを支える法律上の諸制度について解明する必要がある。また、GISTIの構成員200余名(そのうち弁護士は54名)のうち、専従事務職員は8名となっており、ボランティアによって支えられていると考えられるが、研修弁護士をどのように受入れているのか、また裁判提訴をはじめ大規模な活動を展開する上でどのようなシステムをとっているのか、国務院との良好な関係はどのような法文化の下で構築されてきたのかなど、現地を視察し、直接事務所を訪問して、その活動実態についてインタビュー調査をするなどして、解明していく予定である。 そのために、本研究代表者がこの間学問的交流を進めてきたフランス移民法の専門家ダニエル・ロシャック名誉教授(パリ第10大学)およびセルジュ・スラマ准教授(エヴリ大学)は、GISTIの元代表および構成員でもあるので、両教授と連絡を取りながら、外国人/移民立法に関するフランスの最新の動向やフランス公法学の理論動向を把握し、意見交換するとともに、GISTI訪問とインタビュー調査を実現させ、GISTIがフランス司法に与えている役割と影響を明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度においては、まず、旅費として、一週間程度フランス現地に滞在し、フランスの公法学研究者(ロシャック名誉教授ら)の協力を得て、GISTI事務所、パリ弁護士会などを訪問し、関係者にインタビューを行う。 次に物品費として、GISTI発行の文献・出版物を網羅的に収集することにより、その活動の全体像を明らかにする。とりわけ、国務院部長のジュヌヴォワ氏が指摘する「GISTIによる国務院判例への貢献」の具体的内容を理解するために、法実践としてGISTIが関与した国務院の諸判決、また法理論の構築や市民向けの情報提供として団体自らの責任編集で発行してきた書籍を収集し、それらの文献研究を通じて、この団体が司法領域を含む公共空間において寄与している役割を解明する。 研究代表者は、少なくとも、フランスの移民に関する法制度および公法学理論の動向、さらにフランスにおける外国人/移民の権利擁護に関するNPOの役割というテーマについての研究拠点の一つとなれることを目標に、その足掛かりをつくるためにも、本研究の発信の場を設けていきたいと考えている。その手段の一つとして、日本とフランスの外国人・移民の法制度や判例に関するホームページの開設も併せて行う計画である。したがって、ホームページの開設費用も研究費の中から拠出する予定である。
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