研究課題/領域番号 |
23530033
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
菅原 真 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 准教授 (30451503)
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キーワード | フランス / 国際情報交換 / 憲法訴訟 / 憲法院 / 国務院 / NPO / 外国人の権利 / 移民政策 |
研究概要 |
本年度は、フランス憲法院の1990年代以降の「外国人の人権」に関する判例について包括的に収集・分析を行うとともに、外国人/移民の権利擁護のために訴訟提起等の活動を行ってきたNPOのGISTI(移民情報・支援グループ)の組織編制、活動内容、歴史に関する研究を行った。 まず、「外国人の人権」に関する憲法院判例の研究については、フランス憲法判例研究会編(編集代表:辻村みよ子)『フランスの憲法判例II』(信山社、2013年3月発行)において、判例委員として参加し、第II章第1節「外国人の人権」の「解説」等を担当した。1990年代以降、「憲法院は、国家に対する外国人の地位の特殊性を承認する一方、外国人の有する基本権を明らかにする役割を果たしてきた」ということができる。しかし、重要判決である1993年8月12・13日の移民規制法判決が外国人の憲法上の権利を明確化して以降は、21世紀のサルコジ政権の下で「選別的移民政策」に基づく立法が次々と制定され、不法移民やロマの強制送還、テロとの闘争など数々の難問を眼前にして、それに対する憲法院の立憲主義的統制は緩やかになった。人権擁護機関としての憲法院の機能には、疑問符を投げかける学説も生まれており、むしろ、欧州人権裁判所の新たな動向が注目されていることが認識できた。 次に、フランスにおける外国人の権利擁護機関であるGISTIがフランス社会において果たしている役割、その組織編制、活動内容および歴史について研究を行った。GISTIが発行した書籍・季刊雑誌のうち、現在入手可能なものすべてを購入し、図書館に寄贈するとともに、フランス・パリ市にあるGISTI事務所を訪問し、元代表でフランス公法・外国人法の権威であるパリ第10大学名誉教授のD・ロシャック氏らにインタビュー調査をおこなった。それにより、フランス型アソシアシオンの特徴を認識することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果としては、フランスにおける外国人の権利擁護のために重要な役割を担っているGISTIに関する研究を進展させることができた。その組織編制、活動内容、歴史的展開について、文献研究によってだけでなく、GISTI事務所でのインタビュー調査によってその詳細について明らかにできたことが大きな前進面である。とりわけ、①GISTI発足から現代までの史的展開、②フランス国務院トップによってGISTIの活動が高く評価されていることの理由(とりわけ、1978年国務院「GISTI判決」をはじめ、これまでGISTIが直接的または間接的に関与してきた国務院判決のリストを入手できたこと)、③弁護士の司法修習や研修機関として活用されていることの意義、④GISTIが活動を行う上での事業収入や補助金などの収支状況等の知見を得ることができた。これら諸点から、アングロサクソン型(たとえば、アムネスティ・インターナショナル等)とは異なる「フランス型アソシアシオン」の諸特徴が存在することを認識することができた。NPOが公共空間を支える「フランス・モデル」ともいうべき状況については、紀要論文として現在執筆中である。 さらに、憲法院における外国人の権利の展開については、2012年12月の移民政策学会冬季大会での報告、および共著(フランス憲法判例研究会編(編集代表:辻村みよ子)『フランスの憲法判例II』(信山社、2013年3月発行))において、発表の場を得ることができた。 もっとも、EU統合が進展する現在のフランスにおいて、「外国人の人権」に関する公法学的研究を進める際には、フランス国内の国務院判決の研究はもちろんのこと、GISTIが関与するヨーロッパ人権裁判所の判例についてもフォローする必要がある。これら二点については、現時点で研究がほとんど未着手であり、反省材料である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究課題に関する最終年度であり、報告書の完成が最終目標である。 本研究の主要な目的の一つに、外国人/移民の人権を擁護するために、NPOが公共空間を支える「フランス・モデル」を提示することがある。したがって、まず、公法研究者や法曹実務家などによって設立されたGISTIの活動について、史的展開を踏まえながらその特徴を明らかにする(紀要『人間文化研究』第20号に論文を掲載予定)。そこでは、少人数の構成員によって展開される理論・実践両面にわたるGISTIの活動の内容や、そこでおこなわれる弁護士研修の実態について、さらに現地調査を進めて明らかにするとともに、GISTIによって提訴された裁判の判決が外国人/移民の権利保障の前進に貢献していることについて、当該裁判事例(国務院・憲法院のみならず、ヨーロッパ人権裁判所の判決を加える)を網羅的に紹介しつつ、それらに検討を加える。その上で、フランス型のアソシアシオン活動の特徴を明らかにし、残された課題についても論じる。 さらに、ダニエル・ロシャック教授はじめGISTIに関与する公法研究者と日常的に意見交換するためにホームページを立ち上げることによって、外国人/移民立法に関する日仏の最新動向と公法学の理論動向を意見交換し、外国人/移民の人権侵害に対する法的ないし立憲主義的統制のあり方、さらに人権擁護を柱とする法曹養成の在り方についての提言を行う。 次年度で終了予定の本研究テーマをさらに発展させていくために、今後も継続的に、外国人/移民の人権問題や重要な法的諸問題(移民の受け入れから社会統合に至る全領域。たとえば、移民排斥の動向、ヘイト・スピーチの問題など、とりわけ日仏で共通する諸課題)をともに検討し、考察していくための体制づくりと市民への情報提供(ホームページの設置による継続的な日仏公法研究者間の情報交換)も併せておこなっていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度においては、まず、フランスでの現地調査を実施するための旅費として使用する。具体的には、GISTIのシンポジウム等に参加し、外国人の権利擁護のための具体的な活動を知るとともに、現在の具体的裁判事例について、パリ(国務院および憲法院)およびストラスブール(ヨーロッパ人権裁判所)で調査研究活動を行う。GISTIが関与した国内およびEUでの裁判事例の詳細について、公法研究者、法曹実務家にインタビュー調査を実施するとともに、現地でしか入手できない資料を収集する。 第二に、外国人/移民法制、国内外の重要判決、重要な文献、公的機関、NPO/人権団体の取り組み等を発信し、日仏の憲法・外国人法研究者に必要となる情報を提供することのできるホームページを開設するための費用として使用する。昨年度、ロシャック教授にインタビュー調査を行った際、GISTIは既にフランスにおける外国人/移民の人権をめぐる様々な情報を発信するホーム・ページを開設しており、それを見れば、かなりの程度、現在焦点となっている課題を理解できること、日仏の研究者の交流という観点からも、日本の動向についてホームページで発信してほしいとの依頼を受けたことがその背景にある。 最後に、報告書の作成費用として用いる。三年間の研究成果を3月までに報告書としてまとめ、印刷・製本し、関係する研究機関ないし研究者に郵送・配布する。
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