研究課題/領域番号 |
23530036
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研究機関 | 駿河台大学 |
研究代表者 |
北原 仁 駿河台大学, 法学部, 教授 (50195278)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 日本国憲法 / 比較憲法 / 合衆国憲法 / プエルトリコ憲法 / 憲法判例 / 憲法史 / 主権 / 農地改革 |
研究概要 |
平成23年度は、プエルトリコの首都サンフアンにあるプエルトリコ大学のロー・スクールを訪問し、アナゴメス教授、アルバレス教授を始めとする当該ロー・スクールの研究者と聞き取り調査を行った。アナ・ゴメス教授とのインタヴューでは、プエルトリコの社会・政治情勢一般について説明を聴くと同時にプエルトリコの現在の憲法問題についても質疑した。また、ロー・スクールの図書館を訪問し、プエルトリコ憲法の歴史とその成立過程について文献・資料を閲覧した。1952年のプエルトリコ憲法の憲法制定会議議事録を調査するなかで、憲法制定議会では、日本国憲法もプエルトリコ憲法制定の参考にされたことを発見した。 アルバレス・ゴンサレス教授教授は、大著『プエルトリコ憲法と合衆国との憲法上の関係』の著者であって、プエルトリコ憲法の第一人者であるが、教授とのインタヴューにおいて、プエルトリコ憲法史、アメリカ合衆国との関係、州昇格と独立問題、農地改革問題、ビエケス基地閉鎖の経緯等の多様な憲法問題について話し合った。 プエルトリコの正式名称は、「プエルトリコ自由連合国」というが、合衆国憲法の下に組み込まれており、憲法の最終的な決定権は、合衆国議会であり、裁判についても、最終審は、合衆国連邦最高裁判所である。したがって、プエルトリコの憲法裁判も、合衆国の判例と憲法学の強い影響を受けている。たとえば、有名な合衆国連邦裁判所の判例であるレモン事件判決は、プエルトリコにおける政教分離原則としても確立していおり、、日本の憲法裁判と、特に憲法学も、合衆国の判例と憲法学の強い影響を受けているという点で共通している。しかし、西欧諸国の憲法学においては、合衆国の憲法判例の影響はほとんど見られず、プエルトリコ憲法の研究という比較憲法学の視点からは、日本国憲法だけでなく、その判例と憲法学の特質を浮き彫りとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
先の基盤研究(C)(課題番号20530025)の成果として『占領と憲法-カリブ海諸国・フィリピンそして日本』を出版することができ、これは人権規定を中心にはじめて合衆国の占領との関係をカリブ海諸国やフィリピンを含めた広い比較憲法の視点で紹介したものであるが、本研究と密接な関連性がある。さらに、平成23年度は、憲法との研究対象となっているラテン・アメリカ諸国および太平洋諸国の組織法および憲法を概観し、研究成果にまとめ、発表することができた。これは、合衆国の「権利章典」を祖形とする人権規定が、合衆国の拡大にともなって、最初は、建国に参加した13州の北西部地方にどのような形で適用されたのかを考察し、さらに、合衆国の西部地方への拡大、すなわち、テキサス、カリフォルニアの「権利章典」、ついて米西戦争にによって獲得したキューバ、プエルトリコ、フィリピンにおける組織法と「権利章典」と関係を考察した。特に、平成23年度は、プエルトリコ大学のロー・スクールを訪問し、1952年のプエルトリコ憲法の制定過程だけでなく、プエルトリコの憲法判例と憲法学の特質を研究することができ、日本の憲法判例と憲法学との対比を試みることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、フィリピンの大学を訪問する予定であり、現在のところ、日本に在住するフィリピン人研究者と連絡をとり、訪問先と交渉中である。フィリピンは、米西戦争の結果、アメリカ合衆国の植民地となったが、合衆国の占領に際しては、武力闘争を伴う激しい抵抗運動が展開された。その中で、独自の憲法もいくつか構想されたが、その詳細については研究されていない。フィリピンでの現地調査においては、大学図書館や資料館を訪問し、出来得る限り広く、資料を収集すると同時に、1935年憲法の成立過程とその後の憲法改正についても考察する。この憲法は、日本国憲法の9条の戦争放棄条項に影響を与えたことでも、知られているが、この規定はどのような意図に基づいて導入されたかについては、ほとんど研究されていない。今回の研究では、この点についても、研究を進めるつもりである。また、フィリピンを占領した日本軍が後押しして1943年憲法が制定されたが、この憲法についても、ほとんど紹介されてこなかった。今回のフィリピンでの現地調査では、是非この点についても研究を深めたいと考えている。さらには、独立後の憲法判例と憲法学の発展についても、調査を行い、合衆国の憲法判例と憲法学との影響についても調査する予定である。合衆国が占領した地域の憲法学の特質と日本国憲法のみならず、憲法判例と憲法学自体にもどのような影響を与えたのかということを研究することによって、日本国憲法の成立過程との比較を行うことができ、日本国憲法と日本の憲法判例および憲法学の特質を浮き彫りにすることができると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
フィリピンへの渡航費(航空券25万円、滞在費25万円)を予定している。図書の購入代金として和書30冊程度、洋書30冊程度を予定しているが、フィリピンの現地での資料の購入については、貴重な文献の入手もありうることにかんがみて、40万円程度を考えている。 また、現地に詳しいフィリピンの大学生または大学院生あるいは研究者の助力をお願いする可能性もあり、これについて5万円程度を予定している。その他、郵送費などの肥料として3万円を予定している。
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