大規模災害時に市民が避難を行う場合を念頭に置いて、法律にいかなる態様の規定を置くべきか、いかなる避難システムを採用すべきかといった観点から、市民の財産や生命を保護することを目的とした法制整備を研究課題とした。これは、実証研究、比較法研究、法制度分析を重ねることで、実務と理論の架橋を図ることに取り組んだものである。最終年度には、それまでに学術雑誌に公表した避難法制に関する論文を前提に、行政法学における一般理論として、避難の法制に関する法理論がいかなる知見を一般理論としてもたらしうるかという課題に取り組んだ。従前は、事実行為、情報提供活動として、他の事象と区別されずに一括して論じられてきた分野を類型区分し、避難に向けた情報提供に関する法理論を構築すると共に、従前の履行確保手段との関連を深めることを提案し、その成果は行政法総論を扱ったテキストにおいて公表することができた。大橋洋一『行政法1 現代行政過程論(第2版)』(有斐閣・2013年)が、その成果である。同書においては、また、行政法テキストとしては初めて、国際行政法の章編成を採用している。これは、国際的な行政ルールをいかにして国内法に転換するかといった法技術の他に、国際行政協力の重要性を指摘した内容であり、ここでは、災害避難に関するわが国の知見を他国に役立てるといった国際貢献の重要性も強調されている。いずれも、これまでには存在しなかった内容であり、同書を通じて、避難法制に関する知見を行政法理論一般に還元することができたと考えている。
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