研究課題/領域番号 |
23530044
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研究機関 | 富山国際大学 |
研究代表者 |
中村 環 (彼谷 環) 富山国際大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (70288257)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 憲法 / ジェンダー法 / ポジティヴ・アクション |
研究概要 |
本研究は、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)から、女性差別撤廃条約の実施状況が「不十分」であるため、とくに「政策・方針決定過程」において女性比率を高める「積極的差別是正措置」(Positive Action=PA)を導入するよう指示されたことを受け、日本国憲法に適合可能なPAの具体的種類と内容、合憲性審査について究明し提言することを目的とするものである。 今年度は、第一に、現在までの日本におけるPA導入の動きを整理した。とくに、2009年8月に出されたCEDAWの第4回「総括所見」をもとに、日本政府が「第3次男女共同参画基本計画」を策定したが、そこでPAはどのような内容のものだと把握され促進されたか、またこれを受けた自治体や企業等は現在までいかなる取り組みを行ってきたか、官公庁や企業のHPや専門書、雑誌論文等を中心に整理し検証した。 第二に、ドイツの主要政党で実施されているPA、なかでもクォータ制度の実施状況と、それが民主的政党政治とどのように関連するとされるのか、政党HPやドイツ連邦議会の情報やPA研究で著名な学者らの見解も参考に考察した。この視点に基づく研究成果を、2012年3月刊行の富山国際大学こども育成学部紀要に掲載した。 第三に、PAの導入が「政策・方針決定過程」における女性比率の向上に有効か、また、なぜ必要かについて、ドイツの女性大臣や女性経営者の見解等を整理した。この作業を基に、次年度以降ドイツで行なうインタビュー項目についても検討を始めた。 第四に、実質的な男女同権の実現可能性という視点からPAをめぐる憲法的議論に関する考察も行なった。この成果は、2012年4月刊行『レクチャー ジェンダー法』(犬伏由子慶大教授ほか編、法律文化社)の第15章「政治・行政――政策決定過程における男女平等」として結実した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、女性差別撤廃委員会(CEDAW)が日本政府に対し「暫定的特別措置」(PA)を導入するよう勧告し、これを2年以内のフォローアップ項目とするよう位置づけたことから、以下の3点を目標として設定した。すなわち、第一に、日本国憲法における平等原則・平等権から導出される憲法適合的なPAの種類と内容を検証すること、第二に、「政治的意思形成過程」のなかでも、とりわけ、(1)政党における国会議員の候補者擁立手続、(2)国民代表制と男女平等原則にかなった選挙制度の考察、(3)(上記(1)(2)への)PAの導入可能性を考察すること、そして第三に、PAをめぐる総合的な違憲審査論を構築することである。 このうち、今年度は、ドイツの政党における議員の擁立手続にPAはどう活かされているか、また、それは民主主義とどのように関連するか、というドイツにおける実態面と理論面の考察を中心に行なった。 具体的には、各政党のHPやTV・新聞等のメディア、出版物等をとおして、以下のことが明確になった。ドイツの変容する政党政治においては、市民の関心を取り戻すためにPAが用いられるようになったこと、左翼政党から保守政党へと浸透していったこと、PAの導入は政党自身が選択したという点では「自律的」である一方、支持率回復のため導入せざるを得なかったという点では「他律的」な側面もあること、である。また、緑の党(Die Gruenen)が結成当初より、参加民主主義・底辺民主主義の実現形態としてクォータ制を位置づけていたことは、改めて注目に値することがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の視点から研究を進める予定である。 第一に、ドイツの政党で導入されているPAの具体的手法とその成果に関する整理・考察を継続して行う。とくに、ドイツでは2013年に連邦議会選挙が実施されることから、この結果を待ってドイツ主要政党の聞き取りを実施したい。その際、当該制度が、ドイツ基本法で政党に義務付けられている「政党内民主制」の実現に役立ったか、あるいは新たな課題を生じさせたかを調査したい。また、調査結果から導出されるドイツ的特殊性を浮き彫りにするとともに、ドイツ基本法にかなったPAの理論と具体的内容について検証したい。 第二に、日本の政党におけるPA導入の進捗状況を調査し、「第3次男女共同参画基本計画」の目標がどの程度達成されたか検証する。日本では、厚労省委託事業である「ポジティブ・アクション応援サイト」にみられるように、何らかのPAを導入しサイトに登録する企業は現時点で700社以上、女性の活躍推進状況診断事業に参加している企業は3万8千社を超えている。こうした企業の具体的取り組みも参考にしながら、政党の「政策決定過程」に活かせるPAの種類と具体的内容を考察する。 第三に、研究テーマに関する文献・資料の収集と批判的検討を継続し、PA研究資料のデータベース化を進める。累積される文献・資料を、理論的/実態的、総論的/各論的に整理することで、将来のPA研究に大いに役立つと思われる。 第四に、上記の作業を通じて、「日本型PA」の憲法理論的可能性を追求する。日本国憲法は、ドイツのように政党の地位を定めた規定をもたず、自由な活動を保障された政治的結社としての地位を有するとされてきた。しかし、議院内閣制を採用する日本で、公共圏における活動が多い政党の憲法的地位を再検証し、さらに、憲法的原理からPAを政党に導入する可能性について議論構築する必要性があると思われるからである。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、日本とドイツにおける政党およびPAの理論研究を基礎に置きながら、政党への聞き取り調査や、その調査結果をデータベース化するという作業も並行して行うものである。そこで、次年度は、以下のような具体的目的のため研究費を使用したい。 まず、物品費として50万円を予定する。具体的には、主として、日本とドイツにおける政党研究ならびに女性政策をめぐる研究に関する文献・資料の購入費、収集した文献・資料のデータベース化のためのPC周辺機器の購入を計画している。具体的には、従来同様、データ管理のため、プリンタトナーやメモリ、印刷用紙、ファイル等の消耗品の購入が必要となる。のしょうもんhしょうみが必要となる。また、ドイツの政治状況や専門家らの批評を迅速かつ精確に検証するため、、ドイツ専門誌(Neue Juristische Wochenschrift, Der Spiegel, Jurisuten Zeitung等)の定期購読費を希望する。さらに、資料の入力作業に際し、補助作業員の使用するPCと付属機器を購入する必要も生じる。 次に、旅費として、20万円を予定する。国内での憲法関係学会、ジェンダー法学会、地方の研究会への参加ならびにそこでの成果公表を目的とする。なお、ドイツへの取材のための費用は2013年度に計上する予定である。 最後に、人件費・謝金として20万円を予定する。上記文献・資料のデータベース作業は、年度末にまとめて行うため、短期間・集中型の補助作業を依頼する。
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