研究課題/領域番号 |
23530044
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研究機関 | 富山国際大学 |
研究代表者 |
中村 環(彼谷環) 富山国際大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (70288257)
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キーワード | ポジティブ・アクション / ワークライフバランス / ジェンダー / 男女平等 / 熟議デモクラシー / 政党内民主制 |
研究概要 |
1、本研究は、国連女性差別撤廃委員会から日本政府に対し、女性差別撤廃条約の実施状況が「不十分」であると指摘されたことを受け、早急に日本における実現が養成されている諸施策について憲法的視点から考察を行うものである。具体的には、「政策・方針決定過程」において女性比率を高めるため、導入が期待されている「積極的差別是正措置」(Positive Action=PA)について、日本国憲法に適合的なPAの内容と具体的種類、合憲性審査について考察し、提言することを目的としている。今年度の実績は以下のとおりである。 2、PAのうち「緩やかなPA」として位置づけられる「ワーク・ライフ・バランス(WLB)」に関して、富山県内の市町村として初めて高岡市がWLB懇談会を開催し、代表者は座長として理論的裏付けを行った。その結果、「高岡市WLB推進指針」と「高岡市WLB推進事業所認定制度」が策定され、研究成果を行政の施策に反映させることができた。また、高岡市WLB推進指針ならびに推進事業所認定制度の策定過程とその憲法学的考察について、2013年3月発行の富山国際大学子ども育成学部紀要第4巻に「ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取組み」として掲載した。 3、ドイツにおけるクォータ制をめぐる議論については、2012年9月、連邦参議院で可決された上場企業の監査役会にクォータ導入法案が連邦議会で否決されたが、これを含めたPAに関する批判的見解について議論を整理している。これは、今年度、ドイツの政治家や政党関係者らを対象としたPAの実施と効果を訊ねるアンケートにも活かす予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1、本研究は、女性差別撤廃委員会(CEDAW)が日本政府に対し「暫定的特別措置」(PA)を導入するよう勧告し、これを2年以内のフォローアップ項目とするよう位置づけたことから、以下の3点を目標として設定した。すなわち、(1)日本国憲法における平等原則・平等権から導出される憲法適合的なPAの種類と内容を検証すること、(2)「政治的意思形成過程」のなかでも、とりわけ、①政党における国会議員の候補者擁立手続、②国民代表制と男女平等原則にかなった選挙制度の考察、③(上記①②への)PAの導入可能性を考察すること、そして、(3)PAをめぐる総合的な違憲審査論を構築することである。 2、1年目は、ドイツの政党における議員の擁立手続にPAはどう活かされているか、また、それは民主主義とどのように関連するか等、ドイツにおける実態面と理論面の考察を中心に行なった(上記(2)関連)。 3、2年目となるH24年度は、全国の地方公共団体で導入され始めているWLBの内容と導入状況につき、代表者が生活する富山県高岡市総務課と調査研究を行い、WLB懇談会の座長として「WLB推進指針」と「WLB推進事業所認定制度」を策定した(上記(1)関連)。この指針の下、WLB施策を積極的に導入実行し、「緩やかなPA」を実現する事業所が徐々に増えている。 4、当初の計画に対し、憲法適合的なPAの理論的考察についての研究が遅れているが、3年目となる今年は、経済領域へのPAの法制化がなぜ否定されたのか、最新の法的考察も参考にしながら、PAに対する「批判的」議論の整理と、そこから浮かび上がる憲法適合的なPAの内容とその根拠について考察し、社会に還元したいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
1、本研究は当初3年計画で進められ、今年度が最終年度となるはずだが、上記のとおり若干進展が遅れているため、2014年度に研究成果としての出版物を刊行する予定である。そのため、以下の手順で研究を継続したい。 2、第一に、ドイツの政党が採用するPAの具体的手法とその成果に関する整理・考察は継続して行う。今年度はドイツ連邦議会選挙が実施されるが、この結果を受けて、党の政策にPAを導入することや選挙公約にPAを挙げたことの影響についてアンケートを行うとともに、ドイツ基本法で政党に義務付けられている「政党内民主制」との連関についても調査したい。また、調査結果から導出されるドイツ的特殊性を明らかにするとともに、ドイツ基本法にかなったPAをめぐる憲法的議論と具体的内容について整理考察したい。 3、第二に、日本の政党におけるPA導入の意識と進捗状況についてアンケート調査を行い、「第3次男女共同参画基本計画」の目標の達成度について検証する。また、事業所の導入状況も参考にしつつ、政党の「政策決定過程」に活かせるPAの種類と具体的内容を考察する。 4、第三に、研究テーマに関する文献・資料の収集も継続し、PA研究資料のデータベース化を試みたい。研究が進み累積される業績を①理論的/実態的、②総論的/各論的に整理することで、PA研究の一助となるのではないかと考える。 5、第四に、これらの作業を通じて、「日本型PA」の憲法詩論的考察を深めたい。日本国憲法は政党の地位を定めた規定をもたず、自由な活動を保障された結社としての地位を有するとされてきた。しかし、経済同友会が政党法を制定しこれにPAを導入するよう提案しているが、国家権力を担当する政党や公共圏における活動が多い政党の憲法的地位を再検証するとともに、PAの導入とその法的効果との関係を考察したいと思う。
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次年度の研究費の使用計画 |
1、本研究は、①日本とドイツにおける政党およびPAの理論研究を基礎に置きながら、②政党への聞き取り調査を行うとともに、③PA研究の関連資料をデータベース化することも目標とする。このうち、③については、近年のジェンダー研究の進展にともない刊行される文献・資料も多いことから、まずは一定期間を設定し整理することを目指す。そこで、次年度は、以下の具体的目的を遂行するため研究費を使用したい。 2、物品費として50万円を予定する。従来同様、日本とドイツにおける政党研究ならびに女性政策をめぐる研究に関する文献・資料の購入費、収集した文献・資料の整理のためのPC周辺機器の購入を計画する。具体的には、データ管理のため、プリンタ・トナーやメモリ、印刷用紙、ファイル等消耗品の購入や、ドイツの政治状況や専門家らの批評の検証のためドイツ専門誌(Neue Juristische Wochenschrift, Der Spiegel, Jurisuten Zeitung等)の定期購読の継続を希望する。 3、旅費として、20万円程度を予定する。年内に憲法学会で成果公表を行う機会を既に得ている。また、調査研究のための地方出張費も継続として計上したい。なお、ドイツへの取材を予定していたが、メールでのアンケート調査に変更し、研究の効率化と経費削減を図りたいと思う。 4、人件費・謝金として30万円程度を予定する。PA研究に関する文献・資料の整理作業を短期的・集中的に行う予定であるため、補助作業を依頼する。 5、以上の研究成果を単行本としてまとめるため、その他として100万円程度を予定する。
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