研究課題/領域番号 |
23530046
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
勢一 智子 西南学院大学, 法学部, 教授 (00309866)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 持続可能な発展 / 循環型社会 / 環境アセスメント / ドイツ環境法 |
研究概要 |
本研究は,環境法領域を素材とする比較法研究を通じて,持続可能な社会発展の一翼を担う環境法政策が,多様な主体により多層的法政策規範の下で形成・実施される「多元的構造」について,そのメカニズムと法的特色を明らかにすることを目的とする。 具体的には,社会経済システムの転換を伴う持続的環境管理を実現する環境法政策において,特徴的に見られる多元的構造に着目し,その法政策を決定する原理と要因,それを反映した法制度の設計,および制度運用における具体化手法とその機能を検討することにより,社会経済発展との両立を指向する現代的環境管理法制の法理と仕組みを抽出することを目指す。 初年度は,ドイツ環境法を参照領域として,持続可能な環境管理に関する制度理論研究および事例研究を実施した。 制度理論研究として,現在までの制度理念や学説の展開を検討した。具体的には,連邦環境プログラム,個別法の規定と改正動向,環境法典法案などを取り上げ,これまでに持続的環境管理にかかわる政策理念・法原則が形成された議論状況や背景を分析した。具体的には,「持続可能な資源戦略(nachhaltige Ressourcepolitik)」,「持続性原則(Nachhaltigkeitsprinzip)」,「事前配慮原則(Vorsorgeprinzip)」,「資源配慮・次世代配慮(Ressourcen- und Zukunftsvorsorge)」等を取り上げた。 事例研究については,廃棄物処理・リサイクル政策,気候変動防止・新エネルギー政策,環境アセスメントの分野を対象に,各分野の持続的環境管理を実施するための政策形成・制度設計の経緯・背景等を調査した。調査においては,最新の動向を把握するため,政策資料・立法資料・行政資料などの一次資料を利用し,あわせて現地調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は,基金化に伴う手続等の遅れから研究着手時期が遅くなったが,制度理論研究については,体系書やコンメンタールなど主要な文献資料の調査・収集がほぼ予定通りに進めることができた。事例研究については,法改正等の動向およびそれに起因する出版計画の遅れなどにより,一部の分野において個別法分野の調査に要する最新の体系書・コンメンタールが十分に入手できず,次年度以降に追加調査を実施する必要が生じている。ただし,この点については,研究費を次年度に繰り越しており,次年度に計画している研究とあわせて,継続して調査を進める予定である。以上のことから,研究全般としては,おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に着手したドイツ法研究を深化させるためにEU法研究を実施する。EUの環境政策・環境法は,加盟国であるドイツの国内法にも重要な意義を有し,EU法レベルの議論・動向の影響力は看過できない。また,持続的環境管理の要請は,近年,とりわけEU環境法のもとで個別法領域ごとに制度化が進行しており,EU指令の国内法移行としてドイツ法に組み込まれている。それゆえ,ドイツにおける政策形成や制度設計への影響を明らかにする観点から,平成23年度で実施した事例研究・制度研究に引きつける形でEU環境政策・環境法の研究を進めたい。 続いて,ドイツ法・EU法の研究を踏まえ,日本法の制度理論研究を行う。環境基本計画,各部門計画,基本方針などの法政策指針,環境個別法の改正動向,中央環境審議会等における議論状況から,将来的社会像である「持続可能な社会」およびそのもとで提示された3つの社会像「循環型社会」・「低炭素社会」・「自然共生社会」に着目しながら政策理念とその背景要因を検討する。あわせて,法律と条例の関係,地方分権をめぐる議論,体系化が試行されている環境法理論における学説を取り上げる他,最新の先行研究成果も参照して進める。現行法の制定背景を探るために立法資料,政策資料も調査対象とし,環境省を始めとして環境関連行政部局へのヒアリング調査も活用したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,EU法の研究を実施するため,EU法,EU政策,EU環境法関連の体系書・研究書を購入する。あわせて,EU法の国内法移行に係る諸問題を扱う書籍および雑誌論文を収集するための支出も予定している。また,ヨーロッパ法研究および環境法研究に携わる現地の研究者との意見交換を目的とする渡航も計画している。 日本法研究に関しては,行政法・環境法・地方自治の新刊書籍等の購入の他,環境関連行政部局へのヒアリング調査の費用にも支出する予定である。 前年度からの繰り越し分については,引き続き,ドイツ事例研究のための体系書・コンメンタールの購入等に充当する予定である。
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