研究課題/領域番号 |
23530047
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
稲角 光恵 金沢大学, 法学系, 教授 (60313623)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際犯罪 / 国際責任 / 国際刑事裁判所 / 国家責任 / 企業責任 / 個人の刑事責任 |
研究概要 |
「国際法上の犯罪に対する主体別の責任法理の新動態」と題する本研究は、国際法上の犯罪について、国家責任と個人責任(自然人の責任と企業の責任)を分析し、主体別の責任法理の違いと相互関係を明らかにすることを目的としている。そこで、国家責任については伝統的な国際法の学説や法理を概括するとともに、個人責任に関する新しい国際法の発展を描写し、責任追及に関わる論争を取り上げるため、3年間の研究期間を通じて各種の裁判所の判例分析を行うことを計画している。研究初年度である平成23年度は、特に国家責任と国家元首の責任追及が国家間紛争となっている国際司法裁判所の係争事件の判決を主に分析対象としつつ、国際的な刑事裁判機関の判決も参考にして検証する計画にあった。しかし判決延期等の理由から国際司法裁判所の判例分析については次年度以降に回すこととし、国際刑事裁判所における個人責任追及の法理や、平成24年度の研究計画を前倒しして米国国内裁判所の判例分析を行った。特に国際刑事裁判所で歴史上初めての判決が下されるにあたり、法廷地のハーグに渡航して判決を傍聴し、個人の刑事責任に関わる研究を進めた。また米国国内裁判所の判例を素材として企業責任追及の実体について分析を進めた。 今年度の研究の途中成果として、リビア国家の国家責任とカダフィ氏及び高官の刑事責任を追及する新たな動きを分析した研究ノートを「リビアにおける国際犯罪の処罰に関わる2011年の動向――ロッカビー事件からカダフィ裁判まで」と題して金沢法学54巻2号(2012年2月)に発表した。また、「人権侵害及び国際犯罪に関わる国際法上の企業の責任」と題して論文を名古屋大学法政論集(平成24年度に刊行予定)に投稿済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進捗状況については、上記「研究実績の概要」で述べたように、判決の遅れから当初の研究計画どおりには研究が行えなかったのであるが、代替として2年目以降の研究計画を前倒しして進めることにより、研究全体としてはおおむね順調に進展している。また、研究計画を前倒ししたが、平成23年度に計画していた研究計画内容については、判決が順次下される予定であり、平成24年度に実施することができると考えられ、研究全体の成果への影響はないと考えられる。研究成果についても、一部を金沢法学にて公表し、一部を名古屋大学法政論集での発表を想定して投稿済みであることからも順調に進展していると評価している。また、平成23年度の研究費は主にパソコンの購入費と海外渡航費が大きく占めているが、研究費の使用は研究目的達成に適切に貢献している。海外出張においては、学会に参加するとともに、国際刑事裁判所のLubanga事件の判決言い渡しを傍聴したが、本判決は国際刑事裁判所の初めての判決としてメディアの注目を集め、学術的にも歴史的にも重視される判決であることから、持ち帰った資料の分析を進めることは本研究の成果につながると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に平成24年度計画分の研究を進めたため、平成24年度は平成23年度計画分の研究を、特に判決の遅れから分析ができなかった事件についても引続き注意を払い研究を進める予定である。国家元首の刑事責任の追及に関わる論争については実際に最新の国際ニュースにも気を配り研究を進める必要がある。スーダンと南スーダンの紛争悪化に対して国際社会の関心が高まるとともに、スーダンのバシール大統領に対して国際刑事裁判所が逮捕状を発行したことの論争が脚光を浴びているように、国際的動向とともに学術的議論にも注目して分析を行う。重大な犯罪の責任は、被疑者の身分や公的地位によって免除又は軽減されるものではないことがニュルンベルグ原則で明文化され、この公的資格無関係の原則が国際刑事裁判所にも継承されたのであるが、諸国からの反発も多く、シエラレオネ特別裁判所におけるテーラー元大統領の裁判も国際社会から注目されている。これらの事件を分析することにより、特権免除といった原則がどのように適用されて個人責任の認定につながっているのかを探る。英国のピノチェト事件や、セネガルに亡命したHissene Habre元チャド大統領の訴追事件など、国家元首や政府高官が関わった国際法上の犯罪について責任追及する過程において、公的資格無関係の原則と特権免除が問題とされた事件がある。そこで個人責任が追及される根拠と、その責任追及にあたり適用される国際法規を明らかにすることにより、国家責任との関係について議論を整理する。
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次年度の研究費の使用計画 |
パソコンといった研究に必須の基本設備は1年目の研究費で備えることがかなったため、平成24年度は、本格的に研究を進めるために必要な資料収集を中心として研究費を使用する予定である。国家責任や刑事裁判に関する研究の洋書を購入して学説を網羅することにも努めたいため、物品費は洋書の購入に重きを置く予定である。また、平成23年度の研究計画内容で積み残された分も加えて、国際司法裁判所の判例分析を進める予定であり、国際司法裁判所と国際刑事裁判所の法廷地であるオランダのハーグへの海外渡航を含めて、国際学会に積極的に参加することを考えている。したがって海外渡航旅費に研究費の多くを費やす予定である。
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