研究課題/領域番号 |
23530047
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
稲角 光恵 金沢大学, 法学系, 教授 (60313623)
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キーワード | 国際犯罪 / 国際責任 / 国際刑事裁判所 / 国家責任 / 企業責任 / 個人の刑事責任 |
研究概要 |
「国際法上の犯罪に対する主体別の責任法理の新動態」と題する本研究は、国際法上の犯罪について、国家責任と個人責任(自然人の責任と企業の責任)を分析し、主体別の責任法理の違いと相互関係を明らかにすることを目的としている。そこで、国家責任については伝統的な国際法の学説や法理を概括するとともに、個人責任に関する新しい国際法の発展を描写し、責任追及に関わる論争を取り上げるため、3年間の研究期間を通じて各種の裁判所の判例分析を行うことを計画している。 研究2年目である平成24年度は、1年目の研究成果の一部を研究論文(「人権侵害及び国際犯罪に関わる国際法上の企業の責任」)として名古屋大学法政論集に平成24年8月に公表するとともに、判決が遅れていたために昨年度にできなかった判例分析を通じて個人の刑事責任に関わる国際法諸原則について研究を進めることができた。 具体的には、国際刑事裁判所の「ルバンガ事件」判決(平成24年3月14日判決)、シエラレオネ特別裁判所の「テーラー事件」判決(平成24年4月26日)、国際司法裁判所における「ドイツの主権免除事件」(平成24年2月3日判決)及び「訴追か引渡の義務に関する問題事件」(平成24年7月20日判決)の分析を行った。国家元首や国家の行為についての責任論の状況について、それぞれの判決での扱いを追った。これらの判例分析から個人の特権免除と国家免除(主権免除)の関係についても探ることを通じて、国家責任との関係について議論を整理する足がかりを築くことができた。研究成果の一部は、平成24年7月に判例研究(「国際刑事裁判所初のルバンガ事件判決の意義と課題」)を、そして平成25年3月に研究論文(「外国刑事管轄権からの公務員の免除―国際犯罪は例外となるか―」)として金沢法学に公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究実施状況報告書で述べたように、昨年度は判決の遅れを起因とする研究停滞を避けるため、1年目の研究計画の代替として昨年度に2年目以降の研究計画を前倒しして進めたが、今年度は出された判決に順次応じて当初1年目に実施予定であった研究計画を進めることができたため、研究全体としてはおおむね順調に進展している。このように2年目の研究計画を平成23年度に、1年目の研究計画を平成24年度に実施したのであるが、研究全体の成果への影響はないと考えられる。 研究成果についても、一部を大学紀要学術雑誌にて複数公表し、順調に進展していると評価している。 ただ、アメリカ国際法学会への参加を予定して海外渡航を計画していたところ、例年3月末に開催されていたものが平成25年は4月上旬へと日程変更されてしまったため、平成24年度の予算での渡航執行ができなくなってしまったことが悔やまれる。この点で、来年度の研究に向けた学界動向調査と資料収集の計画が若干狂うこととなるが、次年度の平成25年度にはオーストラリア・ニュージーランド国際法学会への参加によって適宜研究の発展に努める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は研究最終年度である。研究最終年度には、国家責任に関する国際法と個人責任に関する国際法を対比させて理論的な分析を行う。平成23年度と24年度の研究成果(個人の責任に関わる国際法の新しい動向)を踏まえて、伝統的な国家責任法との関係を検証する予定である。個人責任と国家責任の関係に関わる問題(侵略犯罪といった国家元首が行った国際法上の犯罪について、どのように刑事責任・民事責任を追及しうるのか、当該犯罪行為は国家行為として個人責任を免除されるのか、又は個人責任が認められることにより国家責任の追及が排除又は忌避されるのか、個人責任と国家責任とでは、その認定において基準や適用法は異なるのか、企業という主体についても、国際法上、責任は追及されうるか等々)の理論的な分析に従事する。このように国際法上の主体としての国家、自然人、企業の各々の義務に関わる問題を分析し、研究成果を発表したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究推進方策で記したように、研究最終年度であるため理論的な分析が中心となりつつも、引続き判例や学界の最新動向に注意を払う必要がある。海外の学界状況の確認と資料収集の面で、平成24年度のアメリカ国際法学会への参加ができなかった分、7月のオーストラリア・ニュージーランド国際法学会への参加をはじめとして、最新学術動向を探る努力を行いたいと考えているため、海外渡航費に研究費の多くを費やす予定である。
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