「国際法上の犯罪に対する主体別の責任法理の新動態」と題する本研究は研究最終年度であることから、特に理論的な分析を行った。まず、最終的な体系的考察を行う前に、初年度と2年目の研究成果に補足的な分析を加えるための追加的な研究を行った。具体的には、2013年にも個人と企業と国家の国際的責任に関する法理について学界等で議論が深化した点(例えば、2年目に調査を行った企業責任の理論に関連するKiobel事件の判決や、国家責任に関するドイツの主権免除事件に関する新説)が見られたことから、補足的に分析を加えた。 この補足的分析と成果を踏まえて、研究最終年度として体系的な理解と結論を導き出す目標をもって、国際法上の犯罪に関する主体別(自然人・企業・国家)の責任を対比させて総合的な分析を進めた。まず企業については、国際法上の企業責任の法理概念自体を疑問視する説もあり、国家責任との関連づけと企業と国家との責任共有(shared responsibility)が唱えられつつも国際的な責任追及システムが整備されるにはほど遠い状態にあること等の問題点がある。他方で、犯罪被疑者個人の刑事責任については、国際的な刑事裁判機関の発展に伴い個人責任の概念が受容され責任追及システムが完備され始めてはいるが、国家元首や高官が享有する免除(免責特権)との抵触問題の顕在化など、国際法委員会や各種裁判所における論争の現状とその課題が明らかになった。最後に国家責任については、主権免除といった伝統的な理論から派生する障害に加えて、個人責任や企業責任との関連づけと同時認定が求められつつも、共通した法理の適用が行われておらず、また実際にも国際法上の責任追及手段が分権化している構造から困難であることなど、様々な理論上及び実務上の問題点が明らかになった。なお、最終年度の研究成果は「金沢法学」の57巻(2014年)に公表予定である。
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