研究課題/領域番号 |
23530049
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内記 香子 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (90313064)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 国際法 / ソフトロー / EU / プライベートガバナンス |
研究概要 |
本年度は、ソフトローの機能や役割についての先行研究をレビューし、近年の理論動向をまとめることを目的とした。具体的には、2つのソフトロー概念に注目して、レビューを行った。1つは、「リーガライゼイション(法化)理論」とよばれるソフトロー概念であり、2つ目は、EU法の「ニューガバナンス論」にみられるソフトロー研究である。10月よりロンドンのUniversity College London(UCL)にて研究員として在外研究を開始したことから、特に上の2つ目のEU研究における理論分析に力を入れることができた。とりわけ、ソフトローを中心としたニューガバナンスが、ハードローを中心とした既存の法制度とどのような関係にあるのかについて理論的なまとめを行った。その過程では、UCL法学部のJ.Scott教授との意見交換をしばしば行った。また10月に行われたイタリアのEuropean University Instituteにおける学会(Global Public Goods and the Plurality of Legal Orders)に参加して得た情報も役にたった。以上のサーベイを総合して、本研究の基礎となる分析枠組みを確定した。その一部は、学会において既に報告した(2011年春季国際法学会報告「WTOにおける科学の役割-SPS協定の限界と近年の体制内の変化-」; Asian Intl Economic Law Network学会 "The Role of Private Standards in Food Safety: How ‘Good Agricultural Practices (GAP)’ in Europe Affect Asian Agricultural Markets")。理論的サーベイのまとめは、分担著書の1章分として現在、執筆中である(書籍は来年度に発行)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の目的は、ソフトロー研究の理論的枠組みの設定であり、当初の予定どおり、(1)ソフトローにどのような機能があると考えられているのか、(2)ソフトローとハードローとの関係はどのように捉えられているのか、(3)どのような実証的な研究が求められ、その実証的研究においてどのような手法が用いられているのか、の3点に着目した分析を行うことができた。とりわけ、ソフトローの形成・機能の点において、WTO(世界貿易機関)のような公的機関だけではなく、非政府組織(いわゆるプライベートガバナンス)の役割が大きいことが分かり、プライベートガバナンスの動向も実証研究の中にいれていく必要性を認識できたことが大きな発見であった。さらに、ロンドンでの在外研究という場所的な利点を活かして、来年度に本格的に行うはずであった実証的研究の一部の聞き取り調査を行うことができた。ドイツ・ケルンに本部をおくGlobalGAPの農作物の生産工程基準を事例として、プライベートガバナンスによって形成されたソフトローがどのような「経路・メカニズム」によって国内政策に影響を与えるとされているのか、調査を始めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定どおり、次年度は実証的研究を行うために聞き取り調査を行っていく。聞き取り調査においては、ソフトローがどのような「経路・メカニズム」によって国内政策に影響を与えるとされているのかという問いを中心に検証を行う。ケーススタディについては、当初予定していた公的機関であるWTO(世界貿易機関)におけるソフトローの動向のほか、ソフトローを形成している非政府組織(いわゆるプライベートガバナンス)の動きも取り扱うこととした。プライベートガバナンスのソフトローが国内政策へ与える影響が、公的機関のそれと比べて大きいことが、本年度のサーベイの結果分かったからである。例えば、農作物の生産に関するGlobalGAPや、バイオエネルギーの生産に関する非政府機関の動向などを視野に入れていくことになる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、年度後半にロンドンでの在外研究を開始したため、場所的な利点を活用して、ロンドンを起点とした欧州域内での調査が増え、当初の見込み額とは異なった。研究計画に大きな変更はなく、前年度の研究費を含めて、当初の予定通り次年度は実証研究を中心に計画を進めていく。本年度に予定していた米国での意見交換を次年度に行うことが既に決定しており、またロンドン在外研究中に可能な欧州域内での調査があれば実施する予定である。
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