研究課題/領域番号 |
23530050
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
齋藤 彰 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80205632)
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キーワード | 国際契約 / 国際商事仲裁 / 投資協定仲裁 / TPP / ベトナム / 市場統合 / ヨーロッパ契約法 |
研究概要 |
本研究においては、国際的な契約規範の進展にとって、市場がどのようなインパクトを有するかを明らかにすることが目的である。本年度はとくに国境を超えたサプライチェーン等の形成やTPPなどに見られるように統合的な市場形成が急がれるアジアを中心として、調査や意見交換を行ってきた。4月には廈門大学で開催された国際経済法に関するシンポジウムにおいてTPPでも話題となっている投資協定仲裁について報告を行い中国の研究者との意見交換を行った。また8月にはベトナムのハノイ・ダナン・ホーチミンの各大学を訪ね、ホーチミン弁護士会では報告を行った。さらに9月にはマレーシアを訪ね研究者・実務家から国際取引の現状について情報を収集した。10月にはシンガポールの国際商事仲裁の動向について調査をおこなった。また11月には国際商取引学会全国大会においてグローバル化が引き起こす法律上の新たな問題に関するシンポジウムでコメンテータを担当した。12月には世銀グループの国際投資紛争解決センターの事務局からClaxton氏を招聘して、3日間にわたり投資仲裁や商事仲裁の最新動向に関するワークショップを行った。12月には再度ベトナムで経済法律大学(ベトナム国家大学ホーチミン校)と共同のシンポジウムを開催し、TPPが日越関係に与える影響について報告を行い、意見を交換した。1月にはパリ13大学からMekki教授を招聘してヨーロッパにおける契約法の統一がEUの域内市場に与えるインパクトに関して意見を交換した。3月上旬にはエディンバラでの国際仲裁に関するシンポジウムに参加し、下旬には香港で行われたシンポジウムに参加し、アジアを中心として活躍する実務家との情報交換を行った。こうした活動を通じて、とくに市場の進展が契約規範等とどのように関連するかについて、現実に関する情報を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際的な契約は水平的な取引者の活動を通じて生み出されるものであり、そのメカニズムを正確に理解することが本研究の中心的な課題である。しかし市場形成にあたり、市場環境を生み出すための公的な仕組み作りや規整の役割についての分析も重要となる。今年度はとくに、TPPや投資協定仲裁など市場化を促進するための公法的な対応についてもさまざまな角度から情報収集を行うことができた。24年度には、国家自体が水平的な取引者として且つ割れる場面が増加しつつあることを観察したが、本年度はそれに加えて、市場の発展における公法の位置づけについてさらに重要な情報を集めることができた。とくにアジアを中心として、経済協力協定のインパクトや、各国における国際商事仲裁進展の状況について、各地の法律実務家や研究者と直接に意見交換を行うことで、より踏み込んだ調査を行うことができた。市場と国家という対比ではなく、水平的な取引をより一層促進するための公共政策的な対応という観点から、TPPなどに見られる国際経済法な取組や投資協定仲裁などの強力な市場取引者救済制度を分析する糸口を見いだすことができたように思われる。 こうした視点をさらに進展させることで、国際契約規範と市場形成とがどのような位置関係にあり、また相互作用を有するのかを明らかにすることによって本研究の最終的な着地点を見いだせるのではないかと考えている。 以上の理由により、本研究は概ね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究が最終年度をむかえるにあたり、研究全体を統合する研究成果をまとめることを計画する。その際に、本研究の特性から、とくに海外での研究報告などの機会を積極的に得ることにより、各地の実務家や研究者からのフ 内外の様々な協力者からのフィードバックを受けながらまとめていくという方法を実行することを考えている。そのために、25年度に行き続き内外での研究報告の機会を活用したい。実務的な側面からは、アジアでの研究報告の開会を中心として、研究成果が各地の実務家や研究者にとって違和感のないものとなっているかについて、特に率直なフィードバックを受けることができるようにしたい。 他方で、経済学的な考察をとりいれた本研究における考察については、学際的な契約法の研究が進んでいるヨーロッパにおいて研究者からのフィードバックを受けることができるような方法を検討しているところである。 このようにさまざまな角度からの批判や意見と向き合う方法を取ることによって、本研究の成果をより正確なものとすると同時に、スケールアップしたものとすることを積極的に考えている。
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